「お互いにチャンスを決めきれなかった。選手たちは集中を切らさず抑えてくれた」(長谷川健太監督)、「お互いチャンスを作ったが決まらない中、延長戦になっても気持ちを切らさず守りきった」(小倉 勉監督)と、両指揮官はまったく同じ感想を口にした。天皇杯３回戦、J1大宮とJ2Ｇ大阪の対戦は、延長まで120分間一度もゴールネットは揺れることなく、PK戦の末に辛くも大宮が４回戦に進出した。

大宮はノヴァコヴィッチ、ズラタン、ニール、Ｇ大阪は遠藤保仁、今野泰幸がA代表に招集されており、互いに将棋でいえば大駒を欠いての対戦。試合展開に最も影響を与えたのは、Ｇ大阪の攻撃の鍵を握る遠藤の不在だったかもしれない。これまでのリーグ戦での用兵から、遠藤の代役は同じ司令塔タイプの大卒ルーキー岡崎建哉が務めると思われた。しかし内田達也とダブルボランチを組んだのは、今季５試合の出場にとどまっている武井択也。守備に強みのあるボランチを２枚並べたのは、「リーグ戦の前節ではカウンターで負けていて、ディフェンスの選手たちもナーバスになっていた部分があった」(長谷川監督)ためだろう。『攻撃のガンバ』が、守備に意識を割いた時点で、この試合の様相は決していたように思える。

一方の大宮も、前節ではＧ大阪と同じく４失点、前々節で５失点していたこともあり、「まずは失点を減らさないと」(菊地光将)という意識がもともと高かった。そしてＧ大阪対策として、「中を締めて厳しく行って、ある程度は外に行かせても良い」と、守り方を徹底。中央突破にこだわるＧ大阪のパスワークを封じ、そこからのカウンターに活路を見出す。しかし、遠藤出場時とは違い、Ｇ大阪はボランチが前線に顔を出して攻撃に絡む場面がほとんどなかった。そのため大宮はボールを奪っても速く運ぶことができず、遅攻に持ち込まれてなかなか崩すことができなかった。Ｇ大阪が最終ラインを高く敷いていたにもかかわらず、大宮の引っかかったオフサイド数がゼロだったことは、大宮の最終ラインの裏のスペースを突く意識が希薄だったことを物語っている。

結果、120分を通じて、どちらに主導権があるのか、その振り幅が非常に狭い試合となった。どちらかが押し込みっぱなし、あるいは受け身に回っている時間帯はほとんどなかった。両者の守備の集中もあるが、それ以上にボールを持ってのミスが多く、互いにボールを失っては戻り、失っては戻りの展開に、リズムを作れない。それでも両者ゴール前のチャンスは作ったし、決定機と呼べるものもいくつかあった。しかしいずれもシュートが枠に飛ばなかったり、ゴールキーパーの好守、あるいはディフェンダーのブロックに阻まれた。「ゴール前のクオリティが勝負を決めると思っていた」(渡邉大剛)という、その最も重要な部分が、両者ともに欠けていた。
もし大宮にノヴァコヴィッチやズラタンがいればどこかでゴールを決めていただろうし、もしＧ大阪に遠藤がいれば、より完璧な形で崩して得点に結びつけていただろう。確かに両守備陣の身体を張っての粘りは素晴らしかったが、互いに守備が良かったというよりは、どうしても攻撃が拙かったという印象が勝ってしまう。
それだけに、体感時間として実に長い試合だった。PKは２人外したＧ大阪に対し、大宮は４人が決め、キックオフから２時間40分後、ようやく勝負に決着が付いた。選手の疲労もありありと感じたが、最後のキッカーの菊地光将が決めた瞬間の大宮ゴール裏も、歓喜に沸くというよりは、勝って終われてホッとした感が強かったように思えた。ホームを上回る観客数がアウェイスタンドを埋めたＧ大阪サポーターも、敗退に怒りをたぎらせるというよりは、選手たちの労をねぎらい、リーグ戦への集中を促していた。

直近のリーグでの大量失点から両者とも守備に重きを置いて戦った。Ｇ大阪は自動昇格圏を死守し、さらにはJ2優勝という最優先課題へ、大宮は連敗をストップして一つでも順位を上げるために、無失点で終われたことは収穫といえる。その収穫を週末のリーグ戦に生かせるかどうかで、この試合の本当の価値が定まるだろう。何とも長い試合である。

以上

2013.10.14 Reported by 芥川和久