この試合を“ジャイアントキリング”の一言で片付けてはいけない――。
勝利した札幌は守備に追われる時間帯があったにせよ、いわゆる“ベタ引き”→カウンターという戦法を取ったわけではなかった。後半の決勝ゴールも決して“ラッキーパンチ”ではない。J2・10位の札幌は勝つべくして勝ち、J1・17位の磐田は負けるべくして負けた。
試合後、アウェイゴール裏は「ウィーアー!サッポロ!」と連呼して勝利を祝ったが、それに応える札幌の選手たちは喜びを爆発させるというよりも、勝利の味をしみじみとかみ締めているように見えた。試合後の取材ゾーンでもそれは同じ。無失点で踏ん張り、直近のリーグ・群馬戦のミスを挽回した曵地裕哉も「J1相手にこれだけの内容で勝てたことは自信になる」と笑顔を見せたが、「でも…」とすぐに表情を引き締めた。「この試合はもう終わったこと。この試合を次に生かさなければいけない」。J1クラブを打ち負かした高揚感よりも、リーグ戦の危機感の方が上回っているように見えた。
互いに直近のリーグ戦のスタメンから複数入れ替えてきた。磐田はセンターバックに菅沼駿哉、左サイドバックに金沢 浄、ボランチにチョン ウヨンを起用。ただし、布陣は直近のリーグ・仙台戦と同じ[4-4-2]を採用。対する札幌も[4-2-3-1]はそのままに先発6人を入れ替えてきた。左サイドバックに松本怜大、ボランチには堀米悠斗を起用。中盤の2列目に三上陽輔、神田夢実、荒野拓馬、1トップに前田俊介をそれぞれ置いた配置で敵地での一戦に臨んだ。
序盤からボールを支配したのは磐田だったが、札幌に慌てるそぶりはなかった。前半を「比較的プラン通り」と振り返ったのは財前恵一監督。「力のある相手なので、チームとして相手に(ボールを)持たれる時間帯も焦れず、しっかりコンパクトな状態を作ると。その意味ではほぼピンチはなかった。奪ったボールをいかにシンプルに運ぶかという部分もある程度できていたと思う。なかなかシュートまで行くことはできなかったが、その意味ではプラン通り」(同監督)。最後尾からチームを見つめた曵地も「最終ラインとのコミュニケーションは取れていたし、相手の前田選手がキーマンということでそこもラインコントロールして上手く守れたと思う」と語る。16分には磐田・阿部吉朗と1対1になるピンチもあったが、渾身のシュートブロックを披露。前半のピンチはその1回のみであり、時間の経過と共に磐田の攻撃に“慣れ”、冷静さを増していった。
粘り強い姿勢が結実したのが67分だった。三上のミドルシュートでCKを獲得し、これを三上が自らキック。一度は磐田にクリアされたが、これを敵陣左サイドで拾った前田俊が前線へラストパス。このシーンを「前田(俊介)くんと目が合っていた」と振り返ったのはゴール左にポジションを取っていた神田。「たぶん相手は、前田(俊介)くんがクロスを上げてくると思ったんだと思う。(ファーサイドへ)スライドをしていたのはわかっていたし、そのまま止まっていたらフリーになると思っていた」(同選手)。前田の左足のパスがやや浮き、難しいコントロールを要求されたが、右足で上手くトラップし、反転。足元に止まったボールを一度左足でプッシュし、前傾姿勢のまま左足をフルスイング。強烈なシュートは磐田・八田直樹の頭上を越え、ゴールネットに突き刺さった。利き足ではない左足でのシュートだったこともあり、重圧を感じてもおかしくない場面ではあったが、「無心」(同選手)で左足を振り抜けた。「練習であの位置からのシュートは結構やっていたし、何も考えず自然に打てた」。ゴール後はアウェイゴール裏のサポーターへ向かって両手でガッツポーズし、喜びを表現した。
後半、磐田にもゴールチャンスはあった。58分、阿部が敵陣左サイドで起点を作り、最後はゴール右の山本康裕がフリーでボールを受けたが、シュートを打ちきることはできず。69分にも小林裕紀のラストパスを受けた山本康がゴール前でフリーになりかけたが、札幌・堀米の鋭いスライディングタックルを受け、シュートを打たせてもらえなかった。結局最後まで札幌のゴールネットを揺らすことができず、0-1のまま試合終了。今季の天皇杯は3回戦で姿を消すことになった。
失点場面ではマーキングの集中力を欠き、札幌・神田にフリーでシュートを打たれ、試合全体を通じても細かいパスミスを減らすこともできなかった。ゲームキャプテン・駒野友一は「自滅してしまった。内容でも相手が上回っていたと思う」とうつむき、関塚 隆監督も「ジュビロにかかわってくださっている方々に本当に申し訳ない」と肩を落とした。試合後はホームゴール裏から痛烈なブーイングが巻き起こり、リーグ戦同様、重苦しいムードに。選手たちは表情を曇らせたままピッチを後にした。リーグ戦では次節、アウェイで川崎Fと対戦するが、精神的なダメージは小さくないだろう。
一方、ベスト16進出を決めた札幌も次なるリーグ戦、ホーム・山形戦に備える。財前監督が「チーム一丸となって掴んだ勝利。今後につながる」と語った通り、9位・山形との直接対決へ向けて大きな弾みをつけることができた。
以上
2013.10.14 Reported by 南間健治
J’s GOALニュース
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