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ルヴァン 準々決勝 第1戦
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【J1:第28節 広島 vs 清水】レポート:広島を救ったのは、19歳の真摯な努力。超豪快弾で首位を奪還!!(13.10.06)

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毎日、毎日。その若者はシュートを撃っていた。全体練習が終わった後も居残り、何度も何度も、左足を振り続けた。試合前日も、高萩洋次郎と2人でゴールネットにボールを突き刺す、そして突き刺す。豪快に振り抜いた左足が火を噴く度に、ネットは揺れた。

トレーニングは、嘘をつかない。10月3日、感動的な引退試合を行った広島東洋カープの天才・前田智徳選手を、鉄人・衣笠祥雄氏は「練習の賜物」と称した。実際に彼は、チーム随一の練習量を常に自らに課していたという。どんなタレントを持っていたとしても、トレーニングなくしてプロとしての成功はない。
若者は、ただひたすらに、シュートを撃つ。「自分のストロングポイントは、これなんだ」。愚直なまでに信じて、シュートを撃ち続ける野津田岳人という若者を、神様は決して、見放しはしない。79分、その時が来た。練習はやはり、嘘をつかなかった。
ミキッチから野津田がボールを受けたその瞬間、距離にして、25〜30m弱。通常であればパスをつなぎ、あるいはドリブルを仕掛けて、コンビネーションからゴールに近づこうとするのが、広島の定石。だが、19歳の若者に、シュートへの迷いはなかった。彼にとっては、十分にシュートレンジ。
「撃つ」。
強い意識を表現したトラップは、そのための準備だ。ほんの少しの助走。弓を引き絞るかのように左足に反動をつける。全身のパワーを左足に集中する。目にも止まらない速さの左足。身体全体を捻り飛ばすかのようなフォロースルー。
これほどの力を込めたシュートは、強すぎるパワーが浮揚力となり、バーを超えてしまう可能性は高い。例えば、その3分前に同点ゴールを放った塩谷司のシュートは、コンパクトかつシャープな振り。高木俊幸がクリアしようとしたボールをカウンターのように捉えた「反動蹴速迅砲」=キャプテン翼のスーパーシュートがそのまま現実となった同点弾は、塩谷の適度に力が抜けたキックあればこそ。力みと鋭さは、同居しない。
野津田の非凡さは、全身の力を集めたボールを地上2mの範疇で飛ばせることにある。昨年の高円宮杯決勝、同じような距離から彼が放ったパワー・ショットは、まったく浮きあがることなく、不規則回転を生んでネットに突き刺さった。誰にでもできるわけではない才能。しかし、常時磨いていなければ、すぐに錆び付いてしまう能力。
ボールは、揺れた。
猛烈な速度で雨を引き裂き、ストンと落ちてポストに当たって跳ね返り、逆サイドのネットを揺らす。
逆転だ。
広島ユース時代から、いや広島ジュニアユースの頃から、重要な試合になればなるほど力を発揮してきた若者の勝負強さに、エディオンスタジアム広島もまた、揺れた。

清水のゲームプランは、試合前に「広島のようなスタイルは日本サッカーの進むべき道ではない。より攻撃的サッカーで粉砕したい」と挑発したゴトビ監督によって、練りに練られた綿密なものだった。前節までの1ボランチから2ボランチに変更し、本田拓也を青山敏弘の監視役にする。攻撃に特徴を持つ石毛秀樹や河井陽介らのサイドバックも守備に重心を置き、言葉とは裏腹にまずは失点しないことを心がけた。先制した試合では14勝2分(状況別勝敗)と圧倒的な戦績を誇る広島の特徴を理解し、「パスを回されても前半は我慢、後半勝負」と割り切った。そして56分、清水番のジャーナリストが「いつもより早い」と口にしたタイミングでFW村田和哉を右サイドに投入し、大前元紀をトップ下に配置。明確なメッセージで勝負に出たのである。

結果として71分、大前がPKを奪って先制。ここまでは、ゴトビ監督のストーリーどおり。だが映画が時に、名優のアドリブによって脚本を超えた味わいを付加されるように、スポーツもシナリオどおりには進まない。
ミスもある。偶然もある。そして、脚本を越えた若者の爆発もある。策士・ゴトビも、サッカーのそういう性質は理解しているはずだが、そこまで計算してシナリオに書き込むことは、どんな名監督にもできない。
塩谷の「反動蹴速迅砲」も、野津田の超豪快弾も、プランに組み込むことは無理だ。脚本に書かれていない強烈な「アドリブ」は清水に動揺を与え、88分に見せた野津田の飛び出しにも対応できない。「シナリオどおり」の広島のカウンターで3失点目を喫し、ゴトビ・エスパルスは膝を屈した。

横浜FMの引き分けによって、広島は得失点差での首位。10月19日、今季の優勝を大きく左右する「首位攻防戦」を戦うために、日産スタジアムへと広島は向かう。チームの危機を救った野津田岳人という若者も、東アジア競技大会の代表として日本のために戦った後、今度は広島のために戦うべく、チームに合流することになる。森保一監督就任以降、1分2敗。最大の苦手チームといっていい横浜FM打倒を心に誓い、若者はまた、シュートを磨き続ける。

以上

2013.10.06 Reported by 中野和也
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