オープントーナメントである天皇杯の醍醐味は、ジャイアントキリングであろう。今大会は名古屋を下した長野と、横浜FCを下した金沢の2チームが番狂わせを達成。大会の盛り上げに一役買っている。

アマチュアチームにとって、天皇杯という舞台においてプロを相手にした戦いがモチベーションの引き上げにつながるのは間違いない。逆に言うと、プロチームにとって大学生チームとの対戦はまさに絶対に負けられない戦いとなる。そうした戦いについて風間八宏監督は「相手がどこだとかじゃない」と話しつつ「今週の2試合はしっかり勝たなければならないので、そのためにもチーム一つになって戦う」と話している。

川崎Ｆが2回戦で対戦するのは高知大学だが、その高知大についての貴重な情報源となっているのが實藤友紀である。

「高知大の戦い方はオーソドックスなので4−4−2。守備的なら4−1−4−1で、一枚はまあまあ大きめの子でカウンター狙い」と話す。この實藤情報を元にしたのかは分からないが、9日の練習では少々のアレンジが施された状態で紅白戦が行われている。

實藤は、高知大学在学中にU-21日本代表に選出され、2010年の広州アジア大会に出場し、日本代表のアジア大会初制覇に貢献。決勝戦では決勝ゴールを決めるなど、印象に残る働きをしている。そうした効果もあり、實藤は今でも高知では「スターみたいなものですね（笑）」（實藤）というような知名度があるという。その實藤も認める高知大の実力者が、中盤の渡部亮武と、左サイドバックの塚本諒の両者。渡部は9月1日に鹿児島で行われた鹿屋体育大学との天皇杯1回戦で直接FKを決め、1−0での勝利に貢献している。また塚本については、高知大を率いる野地照樹監督をして歴代最強のチームと言わしめた（当時の発言）實藤の4年次のチームで1年生の頃から出場していたとのこと。「足が速い選手で、ちょっと離れたところに校舎がある農学部で、大変な思いをして練習に通っているんです」（實藤）という選手だとのことで、どのようなプレーをするのか楽しみである。

そんな高知大学を迎え撃つ川崎Ｆは、プロとしてもちろん負ける訳にはいかない。勝って当たり前の試合になるだけに、簡単な試合にはならないだろう。

週末にもリーグ戦を控える川崎Ｆはメンバーの入れ替えが予想されるが、風間監督は「選手たち全員は毎日トレーニングしてくれているので、期待と信用してます。一番コンディションのいい選手を使おうと思います」と話している。また森谷賢太郎は「（メンバーの入れ替えがあるとしても）そんなに心配してないです。それよりもみんな試合に出たいと思っていると思うし、こんなに（組み合わせが）いいとは思わなかった。こんなにスムースだとは思いませんでした」と紅白戦の手応えを口にする。ヤマザキナビスコカップ準々決勝でのゴールをきっかけに吹っ切れたという森谷は、多少好不調の波を見せつつも、そのポテンシャルの高さを示しつつある。今季から移籍加入したということで、結果にこだわってきた選手なだけに、チームを勝利に導く働きを期待したいと思う。

その森谷とともにFKの居残り練習に励んでいた福森晃斗も注目したい選手の一人である。今季はケガのため出遅れていたが、復帰後は試合終盤に守備的な役割を与えられて途中交代出場してきた。そういう意味で、守備的な役割にばかり目が向きがちだが、左足の質の高さはチームでも随一のものがある。森谷とともに練習していた相手ゴール前でのFKに加え、狙いたいと話していたミドルシュートもかなりのものを持っている。中盤での守備やボールを前に運ぶ起点としての役割がまずあるが、そうした基本的な働きに加え、得点にも期待したい。

なお、中長距離のファインゴールを含め得点を量産している大久保嘉人は、Ｃ大阪時代に２度決勝に進出しながらも戴冠に至ることはなかった。彼自身、国内では無冠だということもあり、タイトルへの思いは強いと話していた。そんな大久保の思いはもちろん、この２回戦はクラブが切望してきたタイトルへの道のりの第一歩である。等々力での開催だということも含め、きっちりと勝利して現存する国立競技場での最後の元日の決勝戦へと勝ち上がって行きたいところだ。

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2013.09.10 Reported by 江藤高志