天皇杯2回戦が行われた栃木グリーンスタジアム。キックオフまで30分を切った時、サプライズが起こった。アウェイ側ゴール裏スタンド前を横切るようにして歩いていたマリヤン・プシュニク監督が、通訳を連れだって柵を乗り越えると、そのままゴール裏スタンドへと入ってきた。驚くサポーターに向かって、にこやかに笑顔を振りまきながら「今日は遠路はるばる我々のために応援にやって来てくれてありがとうございます。感謝の気持ちを表すために握手をしに来ました」と一言。スタンドにいる1人1人に自ら足を運んで握手を始めた。
やがて、サポーターがプシュニク監督を取り囲み、即席の握手会とサイン会が始まる。この日、スタジアムに足を運んだ約60人のアビスパサポーター1人1人に、プシュニク監督は丁寧に対応していく。サポーターは、みんな笑顔を浮かべながらも驚きの表情を隠せない。それもそうだろう。自らこうした行動を起こす監督を誰も見たことがないからだ。1999年から福岡を取材している私も、初めて出会った光景だった。
そして、プシュニク監督はサポーターに向かってチームの現状を話し始めた。以下は、その概要だ。
「今日は、遠路はるばる我々のために応援に駆けつけていただいてありがとうございます。感謝の意を表すために、みなさん1人1人と握手がしたくてやってきました。
我々を信じて下さい。そう遠くないうちに、我々の力を見せることができると思います。選手たちは、ここまで成長してきました。ですから、そのことに関して、私は非常に満足しています。
けれど、我々のクラブには予算がありません。本当に強くなるためには、そこに至るまでのプロセスを踏んでいくことが必要で、ステップ バイ ステップで進んで行かなければなりません。ただ口で『J1、J1』と言うのではなく、J1に昇格するための条件をクラブとして整えていかなければいけません。そのためには、行政やスポンサーのみなさん、そしてサポーターの皆さんの力が必要で、それらの力がひとつになった時、本当の意味でのJ1のクラブになれるのだと思います。
決して野望がないわけではありません。でも現状では、我々にはJ1のクラブとしての力が足りないと言わざるを得ません。ですから、我々の力が大きくなるまで、我慢強く見守っていてください。我々は、まだ大きなミスをすることもありますが、チームは間違いなく成長しています。長い道も小さな一歩から始まるのです。毎年少しずつステップアップして行くことで必ずJ1のクラブになれるはずです。
そして、今の我々に一番必要なものは、サポーターのみなさんの信頼を得ることです。そういう意味では、今日、遠くから応援に駆けつけていただいて、本当にありがとうございます。皆さんには感謝しています」
自分たちが置かれている状況を、自分の口から直接サポーターに伝えたプシュニク監督。その言葉に対して、それぞれの人たちが、それぞれの思いを抱いたことだろう。問題から逃げずに、丁寧に、そして真摯な態度で話したプシュニク監督の姿に、誰もが心を打たれたはずだ。ピッチに戻っていくプシュニク監督の背中に送られたマリヤンコールは、チームの成長のために、そしていつの日かJ1にふさわしいクラブになるために、ともに戦い続けるという意思を表現したものだった。福岡は、これからも走り続ける。
以上
2013.09.09 Reported by 中倉一志
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