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【第93回天皇杯 2回戦 名古屋 vs 長野】レポート:入念な準備と周到な試合運び。長野がカテゴリーの差を感じさせない試合展開を見せ、名古屋相手のジャイアントキリングを達成した。(13.09.09)

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ジャイアントキリングと呼ぶには、あまりに美しい勝ち方だった。ガチガチに守備を固め、カウンターにすべての攻撃を託し、必死のディフェンスで虎の子のリードを守り抜く。そういったイメージとは真逆にある快勝劇で、長野が名古屋を下して3回戦への切符を手にした。

この一戦へ賭けるモチベーションからして、対照的な試合だった。J1で9戦連続無敗と好調を持続していた名古屋は、格下相手の2回戦を無難に勝利し、次週のリーグ戦へと向かいたかったはずだ。それは驕りではなく、J1クラブとしてのプライドであり、同時に現状での目標「リーグ戦での順位回復」という結果に準じたものといえる。予想外だったのは、負傷中の田中マルクス闘莉王だけでなく、ベテラン中村直志と田中隼磨に休養を与え、さらには玉田圭司と小川佳純をベンチスタートとするなど主力の多くを温存して臨んだことだ。チャンスを与えられたのは矢野貴章と永井謙佑のツートップをはじめ、サイドバックの石櫃洋祐とサイドハーフのヤキモフスキー、ボランチの田口泰士ら試合に飢えた選手たち。彼らにとっては指揮官への最高のアピールの場となるはずだった。

だが、長野はこの一戦に勝つための準備を着々と進めてきていた。長野県予選から3バックを導入し、格上相手の5バックを視野に入れた試合運びをイメージしながらこの日を迎えていたのである。MF佐藤悠希の言葉を借りれば3-4-3のフォーメーションは急造ではなく、2週間の準備期間を経て“実戦配備”された対天皇杯、対名古屋用の布陣。美濃部直彦監督が用意した、エース宇野沢祐次を頂点とするアグレッシブな守備を身上とする戦術は、振り返ってみれば機能するべくして機能したものだった。

かくしてキックオフした名古屋と長野の対戦は、序盤から長野がペースを握った。「どっちつかずの展開で、僕らもアグレッシブには行っていた」(藤本淳吾/名古屋)「今日は相手が3バックでボールを回してくる時に、ウチの3トップがプレッシャーをかけに行くことがポイントだった」(佐藤/長野)と両チームの選手が語るように、積極的にボールを動かす展開ながら、名古屋は前線でのボールの収まりが悪く攻撃が落ち着かない。そこで奪ったボールを丁寧かつ早く前線へ送り、ショートカウンターにつないでいったのが長野だった。攻めあぐねる名古屋に対し、FWからの守備でリズムをつかんだ長野が先制パンチを決めたのは13分。ゴール前での崩しの流れでパスを受けた佐藤が右へのドリブルから切り返すようにシュートを放つと、低く抑えられたボールは名手・楢崎正剛の手をすり抜けゴールに吸い込まれた。

注意していたはずの展開に持ち込まれた名古屋は慌てて反撃に出たが、前線の起点が作れず効果的な攻撃が構築できない。一方で攻められつつも自分たちのリズムと型の中で守備を展開していた長野は、余裕すら感じさせるプレーで虎視眈眈と反撃のチャンスを狙っていた。32分にはFW青木翔太が相手DFの隙を突いてボールをかっさらい、宇野沢の決定機を演出。そして41分にはこの試合を決定づける2点目が生まれる。左サイドから右サイドへ展開しつつ、再び左サイドへ大きくサイドチェンジをした先には青木。DFとの1対1からマイナスのクロスを入れると、走りこんだ有永一生のシュートは一度は楢崎のスーパーセーブに遭うも、有永自身が頭で押し込んだ。この日チーム最多4本のシュートを放った運動量豊富なセンターハーフはこの後も随所に効果的なプレーを連発。ゲームメイカーの大橋良隆とともに、試合をコントロールする役割を十分に果たした。

2−0で迎えた後半は、美濃部監督の采配が光った。「勘違いするな、攻める姿勢を見せろ」という指示で選手の気持ちを引き締め、さらに「ゲームの流れ、時間帯、それと相手の状況によって判断を変えろ」と柔軟な状況判断を要求。守り一辺倒でも、追加点に執着するわけでもなく、2−0のアドバンテージを活かせと選手たちを送り出した。これが長野の選手たちの絶妙の精神状態を作り出す。佐藤は「数的優位になってからはもっとやれたかなと思います。でも勝っていたし、トーナメントということもありましたし、監督もあまり行くなと言っていましたから」と、無理をせずに勝敗を重視する戦い方に徹したことを明かしている。名古屋は玉田と小川を後半開始から投入し状況の打開を図っていたが、攻めども攻めどもゴールが遠く、58分には石櫃がラフプレーで一発退場。数的不利に陥ると負のスパイラルはさらに加速した。最終ラインを3枚にし3−4−2の形で逆転を狙ったが、攻守に奔走していたダニルソンが警告を受け、田中輝希と交代。以降はボール奪取力が低下し、ボールポゼッションでも長野に後れを取った。矢野がいくつか見せ場は作ったが、バーにも嫌われアディショナルタイムの4分もあっという間に消化。逆に長野は宇野沢の絶妙のボールキープを起点に有永、大橋らが試合をコントロールし、終了時の感想は長野の完勝といえるほど。後半は名古屋がボールを追いかけまわす姿が印象的だった。

不名誉な今季アップセット第一号となってしまった名古屋の面々の表情は硬く、キャプテン楢崎などは怒気をはらんだ声で「悔しいというより恥ずかしい」と一言発したのみだった。ストイコビッチ監督は「今日の試合を見た限りでは、JFLのチームとJ1のチームにそれほど違いはなかったと思う」と語ったが、確かに完全に両チームの立場が逆転した内容だった。名古屋は週末のリーグ清水戦へ向け、余裕の調整どころか一抹の不安を抱える結果に肩を落とすしかなかった。

最後に、長野のコレクティブなサッカーにはただ驚くばかりだったことを書いておきたい。運動量があり堅実さと連動性十分の中盤と、それを活かす宇野沢の存在感。前に出る守備を推し進め、空中戦でも闘う姿勢を見せ続けた守備陣の果敢さは見ていて爽快だった。天皇杯の面白さは大物食いという結果だけにあらず、こうした良い鍛練を積んできた好チームの好ゲームが見られることこそ魅力だと、長野は再確認させてくれた。

以上

2013.09.09 Reported by 今井雄一朗
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