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ルヴァン 準々決勝 第1戦
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【第93回天皇杯 2回戦 大宮 vs 岡山NE】レポート:順当勝ちもJ1大宮に笑顔なし。中国リーグの雄ネクスファジ、さわやかに散る(13.09.08)

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国内最高峰リーグ所属チームと、4部相当リーグ所属チームの戦いは、4-0で決着した。結果とスコアだけを見れば順当という印象だが、両監督の試合後の会見は対照的だった。敗れたファジアーノ岡山ネクスト(以下、岡山NE)・牧内辰也監督は、「実力差は最初から分かっていた。切り替えやチャレンジする姿勢を出していきたかったが、大宮の個々の能力の前にそれが出せなかった」と、淡々と語った。一方、勝者であるはずの大宮・小倉 勉監督は、「相手の素晴らしい勇敢なプレーとプレッシャーに、自分たちのサッカーを全然させてもらえないまま90分間終わってしまった」と、不満を隠そうともしなかった。要するに、互いに自分たちの良さが出せたという実感を持てない中で、J1と地域リーグの間に横たわる個人や組織のレベル差が表れた、そういうゲームだった。

挑戦者の岡山NEのゲームプランはシンプルだった。「立ち上がり、大宮がまだ起きてないところでファーストアクションを仕掛けて結果にして、後ろは絶対にゼロに抑える」(西原誉志)。大宮の立ち上がりの失点数の多さを、挑戦者は当然、情報として持っていたに違いない。そして、ロングボール主体の攻撃に弱く、そこから激しくハイプレスをかけられると脆いことも。開始30秒で、早速岡山NEがロングボールのセカンドを拾ってミドルシュート。4分にはハイプレスで大宮のパスミスを誘い、飯田 涼がペナルティエリア内に持ち込んでシュート。8分にはエース新中剛史が裏へ抜け出し、ペナルティエリア内でボレー。14分にはJFAアカデミー2期生のゲームメーカー幡野貴紀からバイタルエリアで縦パスを受けた飯田が振り向いてミドルを放ち、そのリフレクションからピッチをワイドに使った連続攻撃につなげてみせた。

大宮は完全に岡山NEの勢いに押されており、「あそこで1点取れれば違う展開になったと思う」と、新中は悔しそうに振り返る。しかし大宮は、もし相手がJ1チームであれば序盤で確実に失点していたと思われる出来ながら、個の能力の違いで先制点をもぎ取る。16分、攻勢に出ていた岡山の左サイドの裏へ今井智基が長い距離のフリーランを仕掛ける。「康太! 康太!」とボランチの上田康太にボールを要求しながら、圧倒的な走力で岡山の左ウイングバックをぶっちぎり、左センターバックまでかわしてロングボールを受け、ゴール前へ折り返すと、ニアで鈴木規郎がつぶれ、ファーに詰めたチョ ヨンチョルがフリーでボレーを叩き込んだ。

先制点を奪われ、ゲームプランが狂ったことで、今度は岡山NEが一気に浮き足立った。両ウイングバックの位置が下がり、前線から中盤まで連動したアグレッシブなプレスが影を潜め、5バックでズルズル下がり始めた。自分たちの形で守備ができている時間は良かったが、受けに回ると脆さを露呈した。特にクロス対応には難があり、序盤からコーナーキック含め再三クロスからのヘディングシュートを許していたが、37分、左サイドの深い位置から今井に利き足でない左足のクロスを入れられ、中に人数はそろっていながら、それほどヘディングが強いとは言えないチョ ヨンチョルに決められた。

この時点で、勝負はほぼ決したのかもしれない。岡山の足は止まり始めていて、攻守の切り替えも目立って遅くなった。高い位置でボールを奪えればそのままの勢いで攻め込めるが、低い位置でボールを奪ってそこからの切り替えが遅れ、大宮の守備ブロックがそろってしまうと攻め手がなかった。ロングボールを入れてもセカンドが拾えず、個人がどこかで頑張って1対1で抜くしかペナルティエリアまでボールを運べない。「複数の人間が絡んで、それを連続することが必要」と牧内監督は語ったが、そうさせなかった大宮との組織レベルの差も大きかった。

そして後半、立ち上がりの51分に今井の突進からゴールを許すと、岡山NEは気持ちの切れた選手も出てきたように見えた。大宮の一方的な展開となり、集中を欠いたミスからピンチを招き、さらに点差を広げられてもおかしくなかったが、大宮の拙攻に助けられた。その後の大宮の加点は73分、ヨンチョルのPKの1点のみ。岡山NEは終盤、幡野を前線に上げ、途中投入の竹内 翼と2トップの形でチャンスを作るが、一矢を報いることはできず、天皇杯への挑戦を終えた。

結果を見れば危なげなく勝利はしたものの、大宮の選手たちに笑顔はなかった。「今日は勝てたというだけだった」(橋本早十)。この日プロ初のハットトリックを記録し、いつもなら上機嫌で取材に応じるヨンチョルでさえ、「今日の試合に満足している人はいない」と、険しい表情を浮かべた。試合後のロッカールームでは小倉監督から、「もっと点を取れたはずだし、相手を圧倒して勝たないとこれからのJリーグを勝っていけない。連敗していたのは、もう一点のところとか、相手より走るとか闘うところが欠けていたからで、今日はその悔しい思いを払拭しなければいけない試合だった」と、厳しい言葉が飛んだという。「その通りだと思うし、選手たちも自覚している。切り替えてやらなきゃいけない」(鈴木規郎)。

一方、岡山NEの選手たちも、サバサバというにはほど遠い表情だった。「格上のチームに何で上回るかというと気持ちと運動量しかないのに、その部分をなくしてしまったことが悔しい」という新中の言葉がすべてだろう。ジャイアントキリングまではいかなくとも、気持ちと運動量を切らさなければ、今日の大宮の出来であれば1点差、2点差の試合にできた可能性は十分にある。岡山NEにとっても、自分たちのサッカーをやりきれなかった後悔が募る試合だった。

互いにポジティブな収穫が少なく、反省点が収穫という試合だったが、それでも今後にこの反省を生かさなければチームとしての成長はない。とはいえ、そういったピッチ内の厳しさをよそに、この日のNACK5スタジアム大宮には、カテゴリーの違うチーム同士の真剣勝負による交流が醸す、天皇杯緒戦独特の空気もあった。
試合終了後、相手選手とレフリーとの握手を済ませた岡山NEイレブンが大宮ベンチの前に整列する。アマチュアカテゴリーらしい礼の尽くし方に、メインスタンドの観客たちも立ち上がり、大きな拍手で迎えた。その後ゴール裏に挨拶して引き上げる岡山NEの選手たちの背中に、岡山サポーターが「ファジアーノ!」コールを送ると、大宮ゴール裏もそれに合わせてスタジアム全体が「ファジアーノ!」コールに包まれた。そして岡山ゴール裏も「アルディージャ!」コールを返す。キックオフ時の気温は30度を超えていたが、吹き抜ける風には秋の気配も感じられ、さわやかな空気とともにNACK5スタジアム大宮の天皇杯2回戦は終了した。

以上

2013.09.08 Reported by 芥川和久
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