「『勝つ』っていいですね」。試合後、磐田の選手たちは口をそろえた。8-1の大勝。ヤマハスタジアムは久々に高揚感に包み込まれた。

戦前に「練習でいくつかの“チャレンジ”をした」と話していた関塚 隆監督だったが、直近のリーグ戦（甲府戦）からのスタメン入れ替えは3選手のみ。先発外となったのは日本代表のため離脱している伊野波雅彦の他、ボランチの小林裕紀と2列目の松浦拓弥。3選手に代わりチョン ウヨン、山本康裕、山崎亮平を先発起用。甲府戦でボランチを務めた藤田義明をセンターバックにスライドさせ、ボランチにチョン ウヨンを起用。中盤の右サイドに山本康を置き、前線は前田遼一と山崎の2トップとした。
対するサウルコス福井（福井県代表）は1回戦の宮崎産業経営大学（宮崎県代表）と同じスターティングメンバー。布陣は[4-4-2]。最終ライン右から鈴木亮平、井筒庄吾、亀井拓哉、絹巻 悟。ダブルボランチに梅井大輝と内久保 亮。中盤右サイドに村田啓輔、同左サイドに亀山泰樹。2トップに阿部 優と坂井優介という並びで番狂わせを狙った。

ゴールショーの口火を切ったのは磐田・山本康。12分、右サイド・駒野友一のクロスのこぼれ球を敵陣左サイドで山田大記がキープし、ゴール前の前田へパスを出すと、このボールがこぼれ、背番号23の足元へ。絶妙なタッチでシュートコースを作り、ゴール左から左足を振り抜いた。追加点は22分。山本康の右サイドからのクロスをゴール前の山崎がスルー。その背後にいた山田が右足でシュートを決めた。さらに25分にも前田のシュートのこぼれ球を山田が右足で押し込み、3-0。27分には駒野の縦パスに反応した山崎が一気に相手最終ラインを突き、4-0。

後半も攻撃の手を緩めない。61分に途中出場・ペク ソンドンのクロスのこぼれ球をファーサイドの山本康が右足で押し込み、5点目。70分には左サイドの宮崎智彦のスルーパスを受けた山本康が右足でループシュート。終盤には途中出場の阿部吉朗、さらに前田がゴールを決め、試合を締めくくった。

公式戦で約2か月ぶりの勝利であり、改修工事を終えた“新ヤマハスタジアム”での公式戦初勝利でもあった。「僕一人の力では取れなかったゴールだし、仲間のみんなの支えがあって取れたゴール。みんなに感謝したい」とはハットトリックをマークした山本康。関塚監督は「ホームで久々の勝利をサポーターにプレゼントできて本当によかった。次週のリーグ戦につなげていかなければいけない」とコメント。無論、今季J1で17位の磐田にとって“残留ライン”の15位・甲府との差が縮まったわけではない。依然として危機的な状況である。だが、それでも、最後の最後までゴールを狙い続けた選手たちの姿に、『もしかしたら…』との思いを抱いたサポーターも少なからずいたのではないだろうか――。

一方、大量失点となった福井だが、逆の見方をすれば、守備的な戦いを選択しなかったということ。佐野達監督は「対戦方法や戦略を様々考えたし、本当ならば（磐田が直近のリーグ戦で対戦した）甲府のように[5-4-1]とか、リトリートしてボックスに人数を多くして守ればある程度戦うことはできたと思う」と語る。Ｊクラブでの指導経験もある知将は「ただし…」と続けた。「我々は将来Ｊリーグを目指すクラブ。今、Ｊリーグとの差がどれほどなのかというところで真っ向勝負で臨み、我々のスタイルで戦った」。

カテゴリーの異なる相手に序盤からリードされる苦しい展開となったが、最後までファイト溢れるプレーを続けた。“意地”も見せた。35分、敵陣左サイドからDF亀井がロングスロー。驚異的な飛距離のスローが磐田守備陣の意表を突いた。この隙を見逃さなかったのは190cmの長身FW阿部。「無我夢中だった」とゴールシーンを振り返る。「とにかく来たボールをゴールに入れるという気持ちだったし、体のどこに当たってもいいという気持ちだった」というヘディングシュートが執念の1ゴールを呼び込んだ。試合後は大敗に肩を落とす選手もいたが、“普段着”のサッカーを貫いて見えてきたものは多くあるはず。「これをいい“物差し”にして次からの戦いに備えたい」（佐野監督）。福井の挑戦は続く。

なお、両チーム通じて警告、退場はゼロ。点差はついたが、けして“荒れる”ことなく、最後まで引き締まったゲームだった。試合後、両チームのサポーターが互いの健闘を称える場面もあり、清々しいムードに包まれたことも最後に付け加えておきたい。

以上