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【第93回天皇杯 2回戦 清水 vs 藤枝】レポート:2人のレジェンドが躍動し、両チームが力を出し合った初対決。清水と藤枝が刻む新たな歴史の美しい第一歩に(13.09.08)

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清水と藤枝は、共に日本を代表するサッカーの街であり、互いに追いつけ追い越せと競い合いながら日本サッカー全体を牽引してきた。歴史的には、まず藤枝がサッカー王国・静岡の礎を作り、清水が藤枝から多くを学びながら追い越して、プロチームという面でも先行。現在は、藤枝も高校サッカーで盛り返し、清水出身者がチームを支える藤枝MYFCが正式にプロクラブになるまであと一歩という状況にある。
そんな中で実現した清水エスパルスと藤枝MYFCの公式戦での初対決。2つの街がもうひとつ誇れるのは、ライバル同士でありながらも、いがみ合ったり、足を引っぱり合ったりすることはなく、互いにリスペクトしながら競い合ってきたこと。この試合でも、結果とは別にそうした良い面がスタジアム内に存分に表われていた。

同じグループやカップルの中でもオレンジのシャツと藤色のシャツが混在するというケースが多く見られたアイスタ日本平。まずスタメン発表では2つの注目点があった。ひとつは、清水がGKを除いて前節とまったく同じメンバー、つまりほぼ現状のベストメンバーで臨んだこと。もうひとつは、藤枝の選手兼監督である齊藤俊秀が先発としてセンターバックに入り、ここまでずっとセンターバックを務めていた藤牧祥吾が右MFに上がったこと。齊藤はいわずと知れた清水のレジェンドの1人であり、藤牧は清水ユース出身の選手。逆に清水のほうでは、藤枝東高出身の河井陽介と村松大輔が主力としてチームを牽引している。

藤枝がチームでもっとも空中戦に強い藤牧をMFに上げた狙いは、清水の両サイドバック・河井と石毛秀樹に高さがないため、そこにロングボールを入れて、落としたボールから1トップの西山貴永やトップ下の村瀬勇太(大前元紀と高校の同級生)らが裏のスペースに飛び出していくこと。藤枝としては、ボールを支配する力では清水が上回ることを認めたうえで、「今日は根比べという面もあって、チャンスは少ないかもしれないけど、左右からの揺さぶりで限られたチャンスを生かしたかった」(齋藤監督)というプランがあった。

その大前提となるのは、齊藤を中心とした組織的な守備で失点をゼロに抑えること。予想通り清水がボールを保持する時間は長くなったが、藤枝はコンパクトな守備ブロックを作って狙い通りきっちりと守り続けた。

その中でとくに驚かされたのは、これまで監督業に専念することが多かった40歳・齊藤俊秀のパフォーマンスだ。藤枝にとってもっとも脅威の存在であるラドンチッチにハイボールが入っても、抜群の読みとポジショニングで跳ね返し続け、競り勝てなくても自由にヘディングする余裕は与えない。さらに、巧みな駆け引きでDFラインの高さも維持し、後半に投入されたスピードスター・村田和哉のドリブルもきっちりとストップ。記者席の後ろで観戦していた清水の選手たちも思わず「うまい!」とうなる場面が何度も見られ、このプレーが継続的にできれば、J1でもまだまだやれるのではないかと思えるパフォーマンスを見せた。

それに引っぱられて周囲の選手たちも高い集中力と運動量を発揮し、藤枝が清水になかなかビッグチャンスを作らせない展開が続いて、前半は0-0のまま終了。後半は清水がギアを一段上げて攻め続けたが、半ばまでは藤枝が粘り続け、「試合の進め方はあれで良かったと思うし、プラン通り進んでいた」(石田博行)という流れ。清水でプロ生活をスタートし、藤枝ではチーム創設時から選手兼コーチとして大きな役割を果たしてきた石田としても、このまま0-0で延長戦まで行けば、暑い中の昼間の試合に慣れている分、自分たちに十分勝機があると感じていた。

しかし、試合を決めたのは、清水が優位に立つ個の力だった。後半27分、清水がペナルティエリアすぐ外の好位置でFKを獲得すると、これを大前がきれいに壁を越えるキックでゴール左に決め、ついに清水が均衡を破る。すると、藤枝の集中力も一瞬途切れてしまい、その2分後には大前の左CKをGKが弾ききれず、こぼれ球をラドンチッチに押し込まれて2-0。その後は清水が余裕を持ってゲームをコントロールできる状態になったため、2点差はセーフティーリードとなり、清水が地力の差を見せて3回戦進出を決めた。

だが藤枝としては、後半36分に市川大祐がついに待望の復帰を果たし、ピッチに立って早々に鋭い右クロスをピンポイントで味方に合わせるなど頼もしいプレーを披露。市川自身も思い出深いアイスタのピッチで藤枝での第一歩を踏み出せたことを喜んだ。また39分には石田博行も出場して、エスパルス出身の4人が揃ってサポーターに元気な姿を見せた。

もちろん、藤枝にとっては「良い経験にしようではなくて、勝ちにいこうと話していた。やりきった感よりも、悔しさが強い」(齊藤)という敗戦。ただ、その実力や可能性を、清水サポーターもしっかりと認める試合内容だったことは間違いない。試合後には、清水サポーターから齊藤、市川、石田、藤牧のそれぞれに応援コールが贈られ、それに応えて藤枝が全員で清水側にもあいさつに向かうと、今度はスタンド全体から熱い“MYFC”コールが湧き起こる。

それは両チームの関係を象徴するような美しい光景だった。と同時に、これから少しずつ名勝負を積み重ねていくであろう対戦史の1ページ目が、素晴らしい形で綴られたことを強く印象づけていた。

以上

2013.09.08 Reported by 前島芳雄
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