試合前に先発メンバーが発表された時点で、仙台と秋田の東北勢対決を盛り上げる要素は揃っていた。
仙台はサイドバックに負傷者が相次いでいたために最終ラインの組み合わせが直前まで想像しにくかったが、発表された先発メンバー表にはDF登録が3人しかいない。3バックなのか? それともMF登録の誰かがサイドバックに回るのか? 試合が始まってみないことにはわからなかった。
一方の秋田。こちらはここ数試合の公式戦と同じ面々がメンバー表に名前を連ねたが、3-5-2とも考えられるし、1回戦を突破したときのように新里彰平が中盤の底まで上がって両サイドが下がる4-2-3-1のようなかたちも考えられる。何より秋田はショートパスワークを動きながら成立させるために、攻撃時のポジション取りは流動的だ。こちらも、試合が始まってみないことにはわからなかった。
そのような中でピッチ上ではウォーミングアップが始まり、スタンドではサポーターがスタジアムの空気を暖めていた。秋田のなまはげが仙台のゴール裏を訪問して盛り上がる場面もあった。
試合前のワクワク感は、盛り上がるスタジアムとミステリアスなメンバー表で高まっていた。
そして天皇杯2回戦はキックオフを迎える。そしてそして、開始から1分も経たないうちに試合が動く。仙台がCKを得ると、秋田がクリアしたこぼれ球を佐々木勇人が拾い、「人が多かったので当たっても入るかなと思って」と思い切りシュートし、これが見事ゴールイン。東北勢対決で地元・宮城出身の佐々木がユアスタ初ゴールを決め、仙台が先制した。
フォーメーションどうこうではない展開から点差が付いてしまった試合だったが、この後の攻防で両チームのカラーが鮮明になる。「失点後に少し落ち着いてボールを回せるようになった」(与那城ジョージ監督)秋田は持ち前のショートパスワークで攻め、仙台はプレッシャーのかけどころを明確にしてボールを奪い、スペースに展開した。
秋田は選手たちが柔軟にポジションを変えてパスを受けにまわり、仙台の隙を突こうとする。一方、仙台は佐々木が右サイドバックに入る4-4-2でスタートし、守備のラインをきっちりそろえるときと、前のポジションを追い越していく大胆さを使い分けた。どちらも先発メンバー表の並びにとらわれずに、それぞれ磨いてきたスタイルを披露した。
勝負としては一対一の強さ、判断力、スピードなど、カテゴリーや経験の差を見せた仙台が勝利。「チャンスはあったので2点目を前半のうちに取れれば」(赤嶺真吾)という反省はあったが、63分にセットプレーから赤嶺が加点し、82分には太田吉彰のクロスから武藤雄樹がつないで松下年宏がフィニッシュして3点目。守備も関憲太郎らの奮闘で無失点に抑えた。
「J1のクラブを相手にできなかったことがはっきりした」。秋田の熊林親吾は反省点を述べながらも「自分達の進んでいる道は間違っていないとも実感できた」と、この試合が今後の財産になると実感していた。
戦術的な見どころも多かったが、終わってみれば、フットボールの楽しさはほかにも至る所にあった。なまはげが舞い、応援歌の歌詞の字幕が翻る秋田の楽しい応援は会場を大いに盛り上げた。そしてこの日もユアスタに大声援を響かせた仙台サポーターは、試合後には元仙台の熊林や期限付き移籍中の島川俊郎にコールや応援歌を贈った。
「サッカーで東北が盛り上がればいいなとつくづく感じたし、彼らの分もこの大会は駆け上がっていきたい」。3回戦進出を決めた手倉森誠監督は記者会見をそう言って締めくくった。カテゴリーの違いはあれど、ともにフットボールの楽しさを伝えた東北の両チームに、大きな拍手が贈られた一戦だった。
以上
2013.09.08 Reported by 板垣晴朗
J’s GOALニュース
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