２００９年、鳥栖（当時Ｊ２）に２対３で逆転負け。
２０１０年、福岡に２−２、ＰＫ戦の末、敗退。
２０１１年、愛媛戦では退場者も出て、０−１。
２０１２年、ＦＣ今治に１−２で敗戦。

広島は４年連続して、下のカテゴリーのチームに屈し、天皇杯の舞台から姿を消した。２００８年の天皇杯では、Ｊ２ながら東京Ｖ・川崎ＦとＪ１勢を撃破し、準々決勝でも柏を圧倒。延長戦でフランサの魔法によって敗れたものの、その実力を存分に見せつけた。だがそれ以来、広島は天皇杯でＪ１チームと闘っていない。Ｊ２に勝利できていないどころか、昨年の相手は地域リーグである。
これ以上の屈辱はない。昨年はＪ１で優勝し、２００９年以降は４年連続して賞金圏内（７位以内）に入賞している広島は、まぎれもなくＪ１の強豪。そういうチームが、下のカテゴリー相手に、こうまで辛酸をなめさせられる。数年に一度、ということであれば、まだ理解もできるが、４年連続だ。ありえない、と言っていい。
この４年間、ベストメンバーが出場していたわけではない。例えば昨年は、西川周作と水本裕貴が日本代表に選出されて不在。ミキッチや青山敏弘も不在で、森崎和幸も疲労を考慮されて途中からの出場だった。今年も、西川や青山、ファン ソッコが代表招集され、ミキッチは負傷離脱中。森崎浩司や山岸智も復帰したばかりで、コンディションは良好とは言えない。しかし、森保一監督は言い切った。
「たとえ、全くリーグ戦に出ていない選手が出ようとも、我々はプロ。アマチュアに負けてはいけない。プライドにかけても、勝たないといけない。我々は、そういうチームなんです。
昨年、我々はＪ１で優勝した。周囲もリスペクトを持って接してくれるが、でももっと強いチームへと成長する強い意識を、結果として発揮できるか。天皇杯とは、我々の上を目指すという気持ちが断固たるものであることを、証明する大会でもある」
明日、ピッチに立つのは、現時点でのベストチーム。リーグ戦を見据えて戦力を調整することはない。メンバーに「サプライズ」は、おそらくないだろう。練習でのテンションも高く、誰もが勝利に飢えている。「もっと、いいボールを」「もっと激しく」。選手たちは互いに、厳しい言葉で要求しあう。「集中力の高いトレーニングができた」と、準備行程に自信を持つ指揮官の表情は明るい。

ただ、福岡大には将来有望な人材が、少なくない。GK藤嶋栄介とFW山崎凌吾は、鳥栖の強化指定選手。特に藤嶋は、横浜FM戦に出場して２失点を喫したものの、好セーブを連発してその能力の高さを見せつけた。山崎は187センチの高さに加え、スピードもある。DF大武峻は、藤嶋と共にユニバーシアード日本代表に選出され、１年生DF中島大貴はU-19日本代表。同じ１年生には、甲府・北九州でプレーしたFW加部未蘭もいる。個々の能力の集積という部分から考えても、あなどれる相手ではない。

９月１日に行われた佐川急便中国SCとの１回戦では、開始5分に先制されたものの、その後は福岡大が圧倒。FW薗田卓馬が４得点を記録し、相手のシュートはわずか３本に抑えて逆転勝ちを演じた。「高さでいえば、Ｊでもあまり類を見ないほど」と水本裕貴も警戒するフィジカル能力の高さは、間違いなく脅威だ。
福岡大は一昨年の天皇杯では大宮を敗り、湘南とも延長戦に持ち込むなど大健闘を演じた。２００９年は水戸を下すなど、天皇杯における「Ｊキラー」。昨年は福岡に４失点くらったものの２点をゲットし、面目を保った。さらに歴史を遡れば、２００１年３月24日、吉田サッカー公園での広島対福岡大の練習試合にたどりつく。
この試合には、森保一、沢田謙太郎、上村健一、久保竜彦、藤本主税ら日本代表経験者をはじめ、後に代表の座を獲得する田中マルクス闘莉王、さらにポポヴィッチや桑原裕義、高橋泰といった実力者がズラリとそろっていた。にもかかわらず、広島は福岡大に５−６という信じ難いスコアで敗戦。この年のセカンドステージで３位になる実力を持っていた広島は、ここでもやはり、下のカテゴリーのチームに敗れていたのである。

広島にとって、もはや言葉はいらない。勝利という結果のみを求め、明日はピッチに立つ。一方の福岡大にとっても、失うものは何もない。昨年のＪ１王者に対し、自分たちの力を思う存分、ぶつけるのみ。永井謙佑（名古屋）をはじめ、数々の名選手を育ててきた名将・乾真寛監督が、対広島戦でどんな戦術を構築して臨んでくるか。そこもまた、楽しみなカードである。

以上

2013.09.07 Reported by 中野和也