ジャイアントキリングやアップセットという言葉が、日本サッカー界を飛び交う季節になった。2回戦からJ1勢が登場するようになり、以前にも増して下部リーグとの対戦が増えたここ数年の天皇杯はまさしく群雄割拠。社会人やクラブチーム、大学生から高校生までが、日本最高峰リーグからの勝利を目論む時代に、J1・J2クラブは普段とは違うプレッシャーを感じている。「勝って当然」「まさか負けることはない」という周囲の目は、挑戦者に勇気と力を与え、格上の動きから本来のキレを奪う。名古屋・港サッカー場で行われるJ1名古屋とJFL長野の対戦は、まさにそのような構図がぴったり当てはまる可能性に満ちている。
長野は現在JFLで2位。今季開幕から現在首位の讃岐と熾烈なデッドヒートを繰り広げている現“J3”の強豪である。どちらもリーグ2位の得点40、失点19という数字から読み取れるのは、攻守にバランスの取れたチームであるということ。メンバーも現在15得点でJFL得点ランクトップを走るエース・宇野沢祐次をはじめ、Jリーグ経験者も数多く在籍しており戦力的にも侮れない。J1時代の京都やJ2徳島の監督を務めた美濃部直彦監督の指導力に疑いの余地はなく、ゆえに組織力の高さは推して知るべし。JFLは8月11日(一部の試合は10日・17日)の第24節後に長い中断期に入っており、その間に入念な名古屋対策を練ってきていることも十分に予想できる。
J1クラブとして明らかな格下の挑戦を受ける名古屋だが、オーストラリア代表に招集されたケネディを除いては、それほどメンバーを落とさず臨むようだ。水曜日の練習ではここ数戦のリーグ戦と変わらぬメンバーが主力組として紅白戦を戦い、選手の入れ替えはほとんど見られなかった。シーズン中はコンディショニングを主眼に置いた練習を行うストイコビッチ監督にとっては、週1回試合をこなすサイクルというのはむしろ歓迎するもの。フルパワーで90分を戦い、1週間をかけてコンディションを整えることは、翌週からのリーグ戦に対しても良い準備をすることができるからだ。
それでも名古屋のメンバー選考では、いくつかの注目点があることも確かだ。水曜日の紅白戦で報道陣の注目を集めたのは、何はともあれケネディのポジションに誰が入るか、ということだった。そこで見られた候補は2人。矢野貴章と永井謙佑である。ともに運動量豊富なFWで、前者は高さ、後者は速さでチームトップクラスの実力者。純粋にケネディの代役として近いのは高さのある矢野だろうが、ポストプレーよりもダイナミックな動き出しに特徴がある選手であり、動きの質としてはむしろ永井と同じタイプだ。一方でベルギーリーグから復帰したばかりの永井は未だフルコンディションには程遠く、実戦の中で調整している状態。しかしそのスピードは下部リーグにとっては脅威以外の何物でもなく、ここで長い時間プレーできればその意義は大きい。両者の違いは高さと速さ。永井の早期復活を望むなら彼をスタメン起用すべきだが、持ち前のサイド攻撃を活かしたいなら矢野も捨てがたい。速さか、高さか。指揮官の判断基準はシンプルながら、悩ましいところだ。
試合はやはり、名古屋が押し込む展開を予想せざるをえない。1回戦で愛知県代表のトヨタ蹴球団を4-1と圧倒した長野だが、J1で9戦連続無敗中の名古屋に対し、同じ展開は望めない。自陣で守備ブロックを築き、宇野沢の決定力を活かしたカウンターを狙う、というのが美濃部監督の考える第一の狙いとなるのではないだろうか。しかし、名古屋も天皇杯では苦戦の歴史を持つクラブである。油断や慢心が大敵であり、さらには格下相手という意識を持つこと自体が危険だということは百も承知だ。田中マルクス闘莉王不在のDFラインを仕切る増川隆洋は、昨季の反省も踏まえて次のように語っている。
「見ている方にとっては楽しみでしょうけど、僕らにしたらハラハラなのが天皇杯の初戦です(笑)。最近の下部リーグのチームはちゃんとこちらを研究してくるし、本当に勝とうとして向かってくる。だから僕らは変にその挑戦を受けないで、試合に甘く入らないようにしないといけない。最初を引き締めればいい流れが来るだろうけど、そこで頑張って慣れられると、相手は前に出ることができるようになって、余裕も出てきますからね。それはさせないようにしないといけません」
他にも「美濃部さんのサッカーのイメージはシステマチックな4-4の守備ブロック。がっつりリトリートしてくる感じですね」と話す増川の見解は、実に過不足のないものだ。だからこそ名古屋はキックオフからフルパワーで先制点を奪いに行き、早めに勝負を決めにいくことが必要になってくる。リーグ戦ここ4試合では2得点目が奪えずに3戦をドローに終えているが、今季のリーグ24試合で無得点試合はわずかに2試合。JFL上位を相手に得点が奪えないはずはない。鍵は開始からの15分間。この時間帯で名古屋が得点を奪うか、長野が守りの流れを作るかで、試合全体の展開が決まるといっても過言ではない。名古屋は力技でもなんでも、先制点を奪って試合を楽にしたいところだ。
最後に、長野との試合を楽しみにしている名古屋の選手の言葉を紹介しておく。長野県松本市出身の右サイドバック、田中隼磨である。
「AC長野パルセイロにしても松本山雅にしても、長野県のチームが力をつけてきているのはうれしいことです。地元でも人気だと聞いていますしね。そうしたチームがJ1のチームと対戦するということが幸せなことですし、いつか長野の2クラブがJ1でプレーすることを願っています。でも僕らは僕らで、この一戦を全力で勝ちに行きます。天皇杯は優勝すれば来季のAFCチャンピオンズリーグ出場権も得られるし、変なサッカーをしてこの後のリーグ戦でリズムも崩したくありませんから。うまく戦って、勝ちたいと思いますね」
古巣などには激しいプレーで気持ちを見せる田中隼だけに、地元のチームとの個人的なダービーマッチにモチベーションも十分。この一戦を動かす存在として、背番号32に注目するのもおもしろいだろう。様々な思惑が交錯する天皇杯2回戦だが、名古屋の初戦も興味深いものとなりそうだ。
以上
2013.09.07 Reported by 今井雄一朗
J’s GOALニュース
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