気がつけばまた、今年も天皇杯の季節が訪れた。J2リーグ戦も残り10節となり、J1昇格戦線も佳境を迎えるなかでの一戦。リーグ戦3位につける長崎はもちろん、同11位の東京VにもJ1昇格プレーオフ進出の可能性は十分残されているだけに、大会こそ違えど、両チームにとってチーム強化のための貴重な1試合となることは間違いないだろう。
対戦相手の長崎が同じJ2クラブであることからも、東京Vでは「リーグ戦と同じ感覚」という選手がほとんどである。恐らく長崎側の思いも、大きく異なることはないのではないだろうか。
同カードは、8月11日(J2第28節)に行われたばかりだ。その試合では東京Vが2-1で逆転勝利を収めているが、三浦泰年監督は「長崎とは、過去のリーグ戦での対戦や前回対戦の結果、前節でうちが岐阜に勝ったこと、長崎がG大阪に勝ったことは一切関係なく、対戦するごとに、どちらがその試合で勝利するかわからない対戦になる」と説く。となると、この試合も最大のポイントは、どちらがより自分たちのストロングを発揮し、収穫を得て来週のリーグ戦へとつなげることができるか、になるだろう。
東京Vはリーグ戦前節、岐阜とのアウェイ戦に勝利し、3つ続いてしまっていた連敗を止めた。順位差以上に、自分たちが連敗中だったこと、相手の岐阜が降格争い渦中である点からも、メンタル的に非常に難しいゲームとなることが予想されたなか、アウェイで勝点3を持ち帰った結果に、三浦監督は「まず何よりもポジティブに受け止めている」と、納得の表情を見せた。
ただ、内容的には、指揮官はじめ、「早い時間に2点を奪ったまでは良かったのですが、その後トーンダウンしてしまって、後半は失点までしてしまった」と、鈴木惇も90分間通して自分たちのサッカーを貫けなかったことを猛省する。特に、14試合連続失点中という守備面における課題を「下がり過ぎて、シュートを打つ人をフリーにしてしまったり、GKの前にただ何人か立っているだけという状態がけっこうある」と、鈴木は指摘。「11人全員でコンパクトな守備ができるようにすることが大事になってくるなか、特にDFライン3人と僕のところ(アンカー)が重要になってくる。そこでしっかりとラインを上げてコンパクトにできるか」。幸野志有人、奥埜博亮といった、機動力のある長崎のシャドウが狙いとするバイタルエリアを3バックと鈴木の4人でどう埋めるのか。この試合の大きな鍵となるだろう。
また、絶対に避けたいのが、岐阜戦でも見られた自分たちのイージーミスからの失点である。「長崎戦では、相手がどうこうと言うよりも、ビルドアップの時とか自分たちがボールを持っている時に変な失い方をしたりしないことが大事」(鈴木)攻めている時こそが、東京Vの守備の最重要ポイントと言えるだろう。
攻撃面では前の試合(岐阜戦)、今季初先発した巻誠一郎がゴールを決めたことがチームを活性化させている。
「試合に出られない若い選手たちと切磋琢磨して常にしっかりと準備していました。僕以外にも、試合に出たくてくすぶってる選手がまだまだいる。そういう選手たちにも良い刺激を与えられたんじゃないかなと思います」
巡ってきたチャンスに結果を残して見せた頼れる背番号18と、彼に感化されたチームメイトたちの奮闘に大いに期待したい。
対する長崎は、現在リーグ戦3連勝と好調だ。前述した前回の東京V戦時は3試合勝ち星がなく、その状況を表すかのように、先制しながらも逆転負けを喫した。だが、今回はチーム状態が一変。前節は首位・G大阪から2点を奪って勝利するなど、しっかりと立て直しが図れており、3位という現在の順位が決して偶然の産物ではないことを自分たちの力で証明している。リーグ戦で苦杯を舐めさせらた相手・東京Vへも、きっちり借りを返したいところだろう。
前回の対戦から、東京VのGK佐藤優也は「長崎は、ボールを奪ってサイドに開いて、サイドが上がって行って中に入れたクロスに対して、佐藤洸一、小松塁などの大きい選手が貪欲に入って決めるという形で、やることが徹底されているチーム」だとの印象を強く受けたと語る。実際、長崎が挙げたG大阪戦の得点場面を見ても、金久保彩のクロスに奥埜が、古部健太のクロスから小松塁がと、2得点ともサイドからの形で、自分たちのストロングポイントが前面に出たゴールだったと言えよう。
ただ、だからこそ、東京Vとしては「その“徹底する形”を作らせない状況に追い込んで、相手を混乱させられればおもしろい」と、佐藤が語れば、鈴木も「今、ウチはパスのリズムがだいぶ良くなってきているので、先手先手でボールを動かしていければ、簡単には相手の思い通りにならないと思います。あとは、1つの形からじゃなく、みんながいろんなイメージやアイデアをいかに出し合って形にできるかだと思います」と、戦況を読む。「決まりごとに対して、全員がそれぞれ最大限の力を発揮してるなと伝わってくる、本当にリスペクトしているチーム」だと、“泥臭さ”が代名詞とも言われる巻が賛辞を惜しまぬほどの長崎の徹底戦法が勝るか、個の技術力で上回る東京Vがアイデアの多彩さで翻弄するか。この試合全体を通しての最大の見どころである。
以上
2013.09.07 Reported by 上岡真里江
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