前半は松本、後半は鳥取。シーソーゲームの様相を呈した一戦だったが、90分通して冷静だったのはホームチームだった。

この試合、両チームに動きが見られた。まずホームの松本は、この夏にFC東京から完全移籍の阿部巧と、白井裕人が「体調面で優れなかったため」（反町康治監督）に村山智彦を先発起用。合流以来コンディション調整に努めていた阿部はここ最近メキメキと調子を上げており、近いうちのデビューを予感させていたが、更なる刺激を与えるためにあえて勝っているチームに手を加えた。一方、アウェイの鳥取は前田浩二新監督の4試合目となる今節、「適材適所を見極め」4-4-2のフォーメーションを採用した。

前半に試合を掌握したのは松本。攻撃時のプレー精度には課題も見えたが、守備はほぼ問題なし。鳥取のアタッカーに仕事をさせずに対応すると、“その瞬間”は33分に訪れた。ペナルティエリア内でボールを受けた岩沼俊介が、相手ディフェンダーを切り返し、中央へ入れると、そこに詰めた玉林睦実がシュート。一度は小針清允が弾くも、そのボールを塩沢勝吾が逃さずに右足を振り抜いた。この先制ゴールで松本は俄然優位に立ち、その後も寄せの甘い鳥取守備陣の間隙を突きカウンターで得点機を作れば、守備でもゴール前に壁を築いた。

後半は鳥取が主導権を掴んだ。前半はサイドで起点を作ることが出来ていなかった両サイドバックが高い位置取りをしたこともあり攻勢を強め、全体的に下がってしまった松本は後手に回る展開となった。特に61分に投入されたドゥドゥは左サイドをたびたび突破し、チャンスを創出するなど切れのあるプレーで貢献。何とか最後のところは耐えていた松本だったが、遂に86分、ドゥドゥのミドルシュートが当たって浮いたボールを久保裕一ダイレクトで押し込まれ、ここで試合は振り出しに戻る。

鳥取としては願わくは勝点3を持ち帰りたかったところだが、現在のポジションを鑑みればまずは勝点を一つでも積み上げることが最重要のミッション。故にアウェイでの勝点1は悪くはない結果だったかも知れない。しかし、久保のゴールの1分後に試合は再び動く。「チームに迷惑をかけていたので、自分で結果を出そうと思っていた」と今節に並々ならぬ覚悟を秘めていた玉林が右サイドをドリブル突破しクロスを上げると、ファーサイドからのヘディングでゴールネットを揺らしたのはまたも塩沢だった。

これで松本はＪリーグ入会後初の4連勝。その要因として、即戦力のピンポイント補強が奏功している点が興味深い。阿部が出場を果たし、アルウィン初お目見えとなった岩上もキックフェイントやロングスローで場内を沸かせた。もちろん楠瀬章仁や鐡戸裕史も彼らにはない武器を持つ実力者だけに、試合後の反町監督が何度も繰り返したように「練習で気を抜けばチャンスは少なくなる」。言い換えればチャンスは公平にあるということ。選手間競争は更に激化の一途を辿りそうだ。

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2013.09.02 Reported by 多岐太宿