水戸の3−5−2対福岡の4−3−3。ミスマッチの多いシステムの対戦ということで、「エキサイティングなゲームになると思う」と柱谷哲二監督が戦前に語っていたように、互いの攻撃的な姿勢がぶつかり合う展開が予想された。しかし、蓋を開ければ、福岡はシステムをダブルボランチの3−5−2に変更。至るところで1対1のマッチアップを生む、ミラーゲームを挑んできたのだ。

7位対8位、J1昇格プレーオフ圏内の「6位以内」を目の前に同勝点で並ぶチーム同士の対戦。この一戦に向けて「絶対に負けられない」という気持ちが強いがゆえに「自分たちのよさを消して、アウェイの戦いに徹するという考えだったのではないでしょうか」と柱谷監督が分析する通り、水戸のよさを潰す、アウェイの戦いに徹す戦いを選択してきたのだろう。変化を見せてきた相手に対して、水戸がどのような対応を見せるかがこの試合の焦点となった。

序盤こそ福岡の厳しいプレスに苦しめられ、水戸はいい形でボールを動かせなかったが、23分に右スローインから抜け出した難波宏明が決定的なシュートを放つと、流れは水戸に傾く。「相手のプレスは厳しかったけど、かいくぐればスペースがある。そこを突いていった」（小澤司）。スピーディーにボールを動かし、福岡のプレスを打開。流れるようなパスワークから再三チャンスを作り出すようになった。

37分、橋本晃司が蹴った右CKを尾本敬が合わせるものの、ゴールポスト直撃。45分には西岡謙太からのスルーパスに難波が飛び込み、GKに防がれたボールを三島康平が狙ったが、これもゴールポストに嫌われ、ゴールならず。多くの決定機を作りながらも無得点で前半を折り返したが、「いい形で攻めることはできていたので、いつか点は入るだろうと思っていた」（橋本）と水戸は自信を持って後半に向かった。

後半も前半同様水戸が主導権を握って攻め込む時間が続いた。しかし、アウェイの戦いに徹する福岡も意地を見せる。水戸の猛攻に遭いながらも3バックを中心に体を張って何とかゴールを死守。中2日の連戦、疲労が色濃く出る中でも集中力高く対応してみせた。

福岡の守備をこじ開けるために、水戸は70分に鈴木隆行、78分に船谷圭祐を投入。鈴木隆が前線で圧倒的な強さを見せて起点を作れば、船谷は柔らかな技術と豊富な攻撃のアイデアを披露して、バリエーション豊かな攻撃で福岡ゴールを襲った。81分には船谷のスルーパスから鈴木隆が抜け出すものの、福岡DFがかろうじて対応。82分には再び船谷がスルーパス。左サイドから怒涛の攻め上がりを見せてゴール前に侵入した輪湖直樹がゴールを狙うが、これも福岡DFが体を張って死守。攻める水戸、守る福岡の力の交錯。見応えのある攻防が続いた。最後の最後まで水戸は攻め手を緩めずに福岡ゴールを襲ったが、ゴールを決めることができずに試合は終了。戦前の「攻撃合戦」という予想に反して、「スコアレスドロー」という結果に終わった。

福岡にとっては大きな勝点1だ。終始水戸にペースを握られ、再三ピンチを招いたものの、「福岡のDFの気持ちと集中力は素晴らしかった」と敵将から称賛されるほどの高い守備意識を見せて、しのぎきってみせた。アウェイの戦いに徹して、しっかり勝点1を持ち帰るという最低限のタスクを果たすことができた。劣勢の試合で負けないこともリーグ戦においては重要なこと。リーグ終盤でこの勝点1が生きてくるに違いない。

一方、水戸の選手たちは「勝たないといけない試合だった」と肩を落とした。多くのチャンスを作りながらも無得点でドロー。「勝点2を落とした感が強い」（橋本）のは否めない。だが、90分通して福岡を圧倒したように、3−5−2にシステム変更して以来、最も攻守のバランスのいい試合だったことは間違いない。「攻守ともによかった」と柱谷監督は内容に関しては及第点を与えた。あとは決定力の問題だが、それよりも決定機を数多く作れたことをポジティブにとらえることだろう。約20分間プレーした船谷も今後チームに大きな力をもたらしてくれるだろうと確認できたことも水戸にとって収穫と言えよう。

「6位以内」を目指す上で非常に重要な試合であった。しかし、これはトーナメント戦ではなく、リーグ戦であることを忘れてはいけない。試合を重ねながら積み上げていくことが重要なのである。大切なことは続けること。この日の戦いを続け、さらに積み上げることができれば、必ずいい結果が待っている。
水戸はもっと強くなる――そんな期待をおおいに抱かせてくれる、スコアレスドローであった。

以上

2013.08.22 Reported by 佐藤拓也