サポーターと一体となって奪い取った価値ある勝利だった。不運なPK献上、乱発するイエローカード、６分間というアディショナルタイムなど多くの試練が群馬に舞い降りてきた。だが群馬は屈しなかった。サポーターの後押しを受けた選手たちは試合終了のホイッスルが鳴り響くまで闘志あふれるプレーを実践、熊本に付け入る隙を与えずに１−０で勝利を収めた。この日奪った勝点３は群馬が、確固たる自信を手にした証だった。

残留争いの修羅場に立つ群馬は平繁龍一を１トップに配置する３−４−３のシステムで熊本を迎え撃つ。最終ラインの中央では新戦力DFクォン・ハンジンが起用され、守備の統率を担う。さらに今節直前に選手登録が完了したブラジルFWダニエル・ロビーニョを懐に忍ばせてゲームへ臨む。一方の熊本はベテラン藤本主税をトップ下に配置する３−４−３の布陣。３バック同士の対決は、攻守の切り替えの速い展開でその幕を開けた。

コンパクトな守備網を形成する群馬は、熊本３トップの流動的な動きを組織的なディフェンスで封じ込めるとリズミカルなパスサッカーで相手陣内へ向かう。だがゴールを奪うことができず逆に熊本へ流れが傾いていく。群馬にとって最初の試練は40分。不運な展開からPKのジャッジが下される絶体絶命のピンチ。だが「チームのために絶対に止めるつもりだった」というGK北一真が堀米勇輝の右方向へのキックを止めてチームの闘志に火をつける。

群馬を勝利へと導く待望のゴールは65分に生まれた。エース平繁龍一がドリブルでペナ内に侵入、２度３度の切り返しで相手DFを置き去りにすると左サイドのライン際からゴール前へ低いボールを送り込む。それに右足で合わせたのはボランチ加藤弘堅だった。「ボールが来ることを信じて走った。相手GKの動きを外してうまく決めることができた」。加藤の今季初ゴールによって正田スタは熱狂の坩堝（るつぼ）と化す。

最後の試練は６分というアディショナルタイム。先制後、多彩な攻撃を続けながらも追加点を奪えなかった群馬は１−０でアディショナルタイムへ突入。チーム一丸となった守備で熊本の総攻撃を弾き返してシュートを許さない。90分間に渡り気迫の守備をみせたファン・ソンスは「今季は何度も最後でやられているので同じ失敗を繰り返すわけにはいかなかった。今日は絶対に負けられなかった」と完全燃焼でサポーターの応援に応えた。そして群馬が勝点３を手にした。

敗れた熊本は前半終了間際のPK失敗が響き、池谷監督代行就任６試合目で初黒星を喫した。前半はトップ下の藤本を中心とした流動的なアクションで群馬ゴールを脅かしたが、後半は群馬の運動量とプレスに圧倒されて前への迫力を失った。「今までの試合と比べて、群馬のプレッシャーが強く、最終ラインのビルドアップが窮屈になっていた」（池谷監督）。熊本は次節徳島、次々節北九州のホーム２連戦が正念場となる。

残留争いの直接対決で勝利を挙げた群馬は、鳥取と勝点で並びながらも得失点差で上回り20位へと浮上した。秋葉忠宏監督は「選手たちは粘り強く、タフに戦ってくれた。難しい状況のゲームで勝点３を奪ったことを誇りに思う」と選手を称えた。だが、これで満足している暇はない。過密日程で千葉、そして愛媛との戦いが控える。「僕らはまだ20位。上のチームの勝点が減ることはないので自分たちで勝点を積み上げて這い上がっていくしかない」（有薗真吾）。群馬はサポーターとともに残留争いという名の絶壁を登っていく。

以上

2013.08.19 Reported by 伊藤寿学