試合が動いたのは後半開始から間もなくのことだった。伊野波雅彦が負傷交代し、不穏な空気も滲むなか、払拭するように磐田が攻勢を強めていく。裏へ狙ったパスに湘南DF島村毅とGKアレックス　サンターナが交錯し、こぼれ球にいち早く反応した宮崎智彦が枠を狙う。ペナルティエリアの外で阻んだアレックスは退場となり、これで得たフリーキックを駒野友一が鮮やかに仕留めてみせた。

「直感ですが、壁の上を越えてくると相手GKが思っているように感じたので」と、逆を突いた駒野曰く。一方、急きょ入ったGK安藤駿介は、「先に動いてしまった。反省しなければいけない」と悔やむ。振り返れば、「後半はマッチアップした形にして戦い、少し我々の勢いを取り戻せたのではないか」と関塚隆監督が語ったように、磐田はフォーメーションを3バックに変更し、それに伴い山田大記がトップ下にポジションを移していた。一連の引き金となった相手の背後への際どいボールは、その山田からの配球だった。

こうして60分に先制した磐田だが、しかし前半はシュート数0という記録にも表れているように手堅くゲームを運び、リズムはおおむね湘南の掌中にあった。ハン　グギョンの持ち前のボール奪取から攻撃へと繋げ、出場停止が明けた永木亮太が縦パスで推進力を加速させる。高山薫が、亀川諒史が左サイドで仕掛け、逆サイドでは古林将太が虎視眈々と裏を狙っている。攻め上がった大野和成然り、フィニッシュに至るシーンは一度や二度ではない。背後へのロングボールに冷やりとさせられる場面もないではなかったが、DF陣を中心とする守備の集中は、あたかも通奏低音のように淀みなく流れる、このゲームの見逃せないポイントだった。

前節に続き10人となり、あわせてビハインドも背負った湘南は、Ｆ東京から合流して間もない大竹洋平が、さらに梶川諒太が相次いでピッチに入る。同点機はそれから間もない。縦パスを収めた大竹が梶川へと繋ぐ。「スペースが空いていたし、自分はフレッシュだったので、どんどん行ったほうがいいと判断しました」。受けた梶川は、言葉のとおりドリブルで瞬く間にペナルティエリアまで持ち込み、クロスは相手DFにカットされるも、こぼれ球をウェリントンがねじ込んだ。78分のことだ。

ゲームは振り出しに戻り、つぎの1点を目指して互いに攻め、互いに守った。6分に及ぶアディショナルタイムを含め、その後スコアが動くことはなかった。先制点の駒野は語る。「みんながいまこそチーム一丸となり、次の試合に向けてやっていかければいけない」。GKとの1対1が見た目とは裏腹な難しさを孕むのと同じように、1人少ない相手との攻防には見えない圧がかかるものかもしれない。いずれにせよ、両者にとって大切な一戦は勝点1ずつを分け合う結果となった。

それにしてもと、印象深く残るのは、失点シーンに関する曹貴裁監督の言及だ。「あのボールにチャレンジした勇気は称えてあげたいし、アレックスの気持ちは否定したくない。結果退場になってしまったが、もう一度同じことがあったときに選手は考えるはず。選手のチャレンジする範囲や気持ちを失わせないようにすることが、監督の僕がやらなければいけないいちばん大事なことだと思っています」。またあわせて、決定機をつくりながらも敗れたゲームのあとの言葉が思い出される。「選手はゴールに入れようという気持ちでやってくれた。俺が彼らに自信を持ってフィニッシュのところをやらせてあげられなかったと、自省の念を込めて思っています」。

選手それぞれのプロセスを大切に思う指揮官のもと、その思いに抱かれた選手たちは、コンパクトフィールドをはじめ、縦への推進力と決定機の創出、チームを思い実現されるそれぞれの責任感、そうして逆境をはねのける力強さをあらためて示した。欲しかった結果ではない。ただ、新たに加わった選手たちの活躍を含め、欲しい結果に至るために大切なプロセスとして、光射す勝点1に違いない。

以上

2013.08.18 Reported by 隈元大吾