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【J1:第21節 甲府 vs 川崎F】レポート:45分間はほぼパーフェクトだった甲府を、90分間3発で撃沈した風間フロンターレ(13.08.18)

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「普通はこういうチームは1点取れば勝てるけど、甲府は自滅したよね」
大久保嘉人の直言は、気を遣った当たり障りのない言葉なんかより有用な教訓になる。彼はこうも話してくれた。
「俺もそういうチームにいたから分かるけど、早い時間に先制すると『点を取られたくない』と考えて大胆に行けなくなる。DFラインも最初と同じようにボールを回せるのに回せなくなる。後半は中盤に下りても誰も(プレスに)来ない。空きまくっているなと思っていた」
彼の言葉を甲府の選手・スタッフがどう感じるか分からないが、不運な出来事を理由にしないで、追加点を取れなかったことと、追加点を許したことを受け止めて成長の糧にしたい。

前半の甲府はチームの現状と戦術的な狙いにおいて、ほぼパーフェクトだった。5バック(3バック+ウィングバック)が注目されるが、1トップのパトリックからディフェンスラインまで組織としてカバーし合って、川崎Fに決定機を作らせなかった。甲府が川崎F陣内でボールを失った後の守備でも、ファーストディフェンダーがボールを奪いに行く、かわされてもボールを追うという献身的なプレーでディフェンスラインを助けた。

そして、レナトや稲本潤一らケガ人が多く先発が何人も入れ替わっている川崎Fのミスが甲府のカウンターに繋がった。30分の先制ゴールも川崎Fがカンターの仕掛けで決定的なパスミスを犯して、甲府がカウンター返しを仕掛けたもの。ジウシーニョが左から入れたクロスは合わなかったが、GK・西部洋平がパンチングしたように見えたボールがペナルティエリア外にいた柏好文に大きな弧で渡り、冷静にトラップして慌てることなく打ったシュートがゴールネットを揺らした。

33分には河本明人が右サイドから入れたグラウンダーのアーリークロスがパトリックに合うが、右足のアウトサイドで打ったシュートは浮いてゴールを越えた。柏の先制ゴールで機嫌が良くなっていたスタンドは一斉に頭を抱えたが、そのうちパトリックは決めるだろうと思える雰囲気はあった。このシュートが決まっていれば前半をパーフェクトと断言できた。サイド使う攻撃もサイドチェンジも機能していたし、44分に見せたワンタッチパスでプレッシャーをかわす連続プレーは“上手い”ではなく“巧い”と言いたくなる感覚。

ただ、後半も同じように戦えると思うほど川崎Fもサッカーも甘くはないことは分かっていた。後半開始からアクセルを踏んでくることは予想通りで、主導権は川崎Fが持つ時間が長くなる。
そのなかで、49分にカウンターから山本英臣がオーバーラップして裏に抜けた攻撃は素晴らしかった。トラップが大きくなってシュートは打ちきれなかったが後半最初の決定機だった。終わって思い返せば、33分のパトリックのシュートと49分のこのチャンスに決めきれなかったことが勝敗に大きく影響したのでないだろうか。少なくとも甲府の選手が自分たちの才覚で流れを左右できるチャンスだった。
その直後、52分に盛田剛平がアラン ピニェイロを倒した場所がペナルティエリア内と判定されて川崎Fに与えられたPKを大久保が決めて同点になるのだが、甲府に厳しく、そしてメルヘンチックに振り返れば勝利の女神は決定機にゴールを決められないチームを愛してくれない…のかもしれない。

PKを決められても同点で、勝点1は甲府のもとにあった。52分にジウシーニョが川崎Fのペナルティエリア内で倒されたように見えたプレーもあったが、PKを与えられなかったことにジウシーニョが抗議して与えられたのはイエローカード。これでピッチ内もスタジアム全体の雰囲気も殺伐としたものになったが、結果論としては「忍」と「耐」が必要だった。
しかし、大久保が言ったように、甲府のディフェンスラインは自信や冷静さを欠いていた。盛田も「後半は落ち着いた場面なくやられた感じがする」と話しているが、60分に大久保が胸で落としたボールを中村憲剛がスラップショットで決めて川崎Fが逆転する。中村は「嘉人がどいてくれて、(シュート)コースが見えていた」と話していたが、こういうワンチャンスに決めるのが川崎Fの選手の力。このシュートを決められた瞬間に、力の差を見せつけられた気がした。中村が「甲府の最終ラインはそこまでビルドアップが上手くないから(大久保)嘉人と2人ではめ込んでいけると思っていた」と話したが、はめ込まれる前に甲府の最終ラインのミスから与えたチャンスが起点だった。この起点となったミスを犯したのはセンターバックの佐々木翔だが、佐々木は今シーズン、サイドバック→ボランチ→サイドバック→センターバックなどとチーム事情に合わせていくつものポジションでレギュラーを掴んできた選手。大卒2年目の佐々木の貢献は大きいし、スピードと強さを併せ持つ成長株には「次も思い切ってやれ」と言いたい。ミスにミスを重ねた末の失点だったことの方が問題なのだ。

66分にも甲府はミスの3連続と言っていいほどの連係と判断の不一致からゴール前でごちゃごちゃする中で大久保に決められている。2点リードした川崎Fは無理をする必要はなくなった。2点目を取るためにアクセルを踏む甲府に対して、ゴール前に人数を掛けて守る、時間をうまく使おうとしてくる…のは当然。
甲府は後半だけで8本のコーナーキックがあったが、1度でも川崎Fをヒヤッとさせることができただろうか。前半の内容を振り返れば、今後の戦いに向けて甲府は自信を持ってもいいと思うが、90分でどう勝つかという意味での課題は小さくない。次節はアウェイで湘南戦(8/24)。ホームで負けている相手だし、残留争いをしている相手に勝点は1ポイントたりとも渡したくない。次節の基本戦術は、意地と根性のわーわーサッカー(全員攻撃・全員守備)と言ってもいいほどの熱い戦いになる。45分間の自信と90分間の課題をバランスよく消化し、取り込んで挑むしかない。

川崎Fは風間八宏監督が「内容としてはそれほど褒められたようなものではない」と話したが、苦しい台所事情の中で勝って順位を7位に上げたことが自信に繋がるはず。森谷賢太郎などは試合ごとに自信をつけ可能性を大きくしているのではないだろうか。苦しい台所で育つ若手が終盤戦に向けて効いてきそう。簡単なミスからカウンターのチャンスをプレゼントしている点は課題だろうが、今節も3ゴールを挙げているので課題を嘆くよりも、ストロングポイントを磨く方が風間フロンターレというイメージに合っているように“外野”からは見えるが、内野の意見はどうだろうか…。

以上

2013.08.18 Reported by 松尾潤
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