浦和にとっては最悪の立ち上がりだった。優勝争いに食らいついていくためには絶対に負けられないと意気込んで臨んだ一戦だったが、開始１２分で失点。ＦＫにヘッドで合わせた梶山陽平に対し、浦和は槙野智章と平川忠亮の２人が付いていたが、それでもやられてしまった。
さらに、その３分後にもセットプレーから失点。木村祐志がＣＫを蹴り、ニアで阪田章裕が後ろに流すと、ゴール正面に飛び込んできた若狭大志に押し込まれた。これは大分の作戦が見事にハマった形ではあったが、それにしても浦和は簡単にマークをはがされすぎだった。今週、浦和は普段ならやらないセットプレー対策をしていたのに、それでも防げなかった。

ただ、セットプレーは注意していても、やられる時はやられる。最もひどかったのは２０分に喫した３失点目だ。左サイドのチェ ジョンハンが上げたクロスに松田力が合わせて決めた形だったが、チェ ジョンハンに対しては森脇良太と平川忠亮が付いていた。にもかかわらず、２人の間からクロスを簡単に通されるというＤＦとして最もやってはいけない形でパスを出されると、ゴール前は２対３と数的優位だったのに那須大亮が死角を取られ、松田に後ろから前に入り込まれる形でマークを外され、フリーで決められた。

最下位相手に序盤に３失点。「みんなも昨年の札幌戦がよぎったと言っていた」と槙野が振り返ったように、昨季優勝争いから脱落するきっかけとなった苦い記憶が蘇る最悪の試合展開。だが、その嫌なムードを吹き飛ばしたのが興梠慎三だった。

３失点目からわずか４分後の２４分、左サイドの槙野がクロスを送ると、ニアに入っていた宇賀神友弥がスルー。この動きにＤＦの１人がつられ、フリーでボールを持った興梠が落ち着いてゴールネットを揺らした。
３失点で重い空気が流れたなかで、すぐに１点を返せたことは大きかった。「慎三が決めてくれたことで勇気を与えてもらった」と森脇もターニングポイントだったと振り返る。これで浦和は２点ビハインドでも慌てることなくゲームを組み立て、何本かチャンスも作り、追い上げムードで前半戦を折り返した。

そして後半立ち上がり、マルシオ リシャルデスがその勢いをさらに加速させる。ゴール正面の位置で得たＦＫを直接たたき込み、点差を１点に縮めた。０−３から２−３に。こうなると浦和の勢いは止まらない。
引いて守ってリードをなんとか死守しようとする大分に対し、浦和は攻勢をかけ続けると、55分には宇賀神のフリックが相手選手のハンドを誘ってＰＫを獲得。これを阿部勇樹がきっちりと沈め、ついに試合を振り出しに戻す。

主導権を握った浦和は優勢に試合を進めると、待望の瞬間が訪れたのは84分。森脇が右サイドからクロスを入れると、「サイドチェンジが入った時点でゴール前に入ろうと考えていた」と大胆に攻め上がっていた那須がヘッドで合わせて逆転ゴールを決めた。
「試合前から、この大分戦で負ければもう優勝はないとチーム全員で言っていた。そう簡単に優勝争いを諦めたくないし、３失点しても絶対に逆転してやろうという気持ちが一人ひとりにあったと思う。最後まで諦めなかったことが勝利につながったと思う」（興梠）

ただ、この劇的な結末が生まれた要因としては、大分の守備対応にかなり問題があったことも挙げておかねばならないだろう。守備時に５−４−１のフォーメーションを敷いた大分だったが、ボランチ２枚が前に食いついていく傾向が強かったため、バイタルエリアの守りがスカスカになることが多かった。
特に大量リードの段階ではボランチ２枚の後ろに広大なスペースができていることが多く、それは１トップ２シャドーが攻撃の起点になる浦和にとっては非常に好都合な状態だった。大分は点差を縮められていくなかで、引いてブロックを作ることが多くなっていったが、それでも中盤の選手のポジショニングに難があり、フィルターとしてほとんど機能していなかった。
浦和のフォーメーションと大分のフォーメーションはガッチリと噛み合うため、基本的にマークが浮くことはないはずだったが、大分の守備対応だとスペースができるので、ちょっとした動き出しでボールを簡単に受けられる状況にあった。「後半は相手が引いていたけど、しっかり引いていたわけじゃなくて、けっこうスペースもあったからやりやすかった」と柏木陽介も指摘していた。

大分は勝つべき試合を落としてしまった。残留争いを考えると、痛すぎる黒星だ。しかし、終わったことを悔やんでいても仕方ないだろう。今回の敗戦は降格圏から脱出するための授業料だと割り切り、今一度、守備の仕方を再点検していきたい。

以上

2013.08.18 Reported by 神谷正明