決して内容が良かったわけではない。残り10分を切ってからは、いつ同点にされてもおかしくない時間が続いた。それでも手に入れた勝点３。「プレーの質が悪かったにも拘わらず、勝点３を取ったのは２回目。これは、私のチームが、少しずつではあるが成長していると言えると思う。また、シーズン序盤には、我々にはツキがなかったが、それが回ってくるようになった。サッカーの神様が、我々の仕事ぶりに対して、ご褒美を与えてくれているのではないか」と福岡のマリヤン プシュニク監督は振り返る。落ち着いて話す態度からは、課題を感じながらも、結果を手に入れたことに対して満足していることが窺えた。

前半は福岡がボールを握って試合を進める展開が続く。アビスパらしく、球際で激しく寄せてボールを奪うシーンも随所に見られ、まずまずのスタートを切ったかのように思えた。しかし、いまひとつリズムに乗り切れない物足りなさが漂う。そんな状況を坂田大輔は次のように振り返る。「相手があまり来なかったので、後ろで気持ち良く回し過ぎたところがあったと思うし、それで、なかなか前にいいボールが入らなかったし、前線とのコンビネーションという意味では、かなり良くなかった」。群馬にイージーミスが多かったことや、ブロックを形成して低い位置に留まっていたこともあって危ないシーンはなかったが、主導権を握っているとは言い難い内容だった。相手にボールを握られた群馬。ボールは握るものの前へ出て行けない福岡。前半は、ともに我慢の45分間だった。

しかし、後半開始早々に試合が動く。46分、金森健志が黄誠秀との競り合いを制して左サイドを突破。そこからの折り返しを受けた石津大介が浮球のパスをファーサイドへと送る。そこで待っていたのは城後寿。ジャンプ一番、頭で合わせてゴールネットを揺らした。ここからは福岡のリズム。右サイドから城後が、左サイドからは尾亦弘友希が駆け上がってクロスを供給する場面が増えて行く。ようやく攻撃にスピードが感じられるようになった選手たちの姿に、スタンドのサポーターに追加点への期待が膨らむ。

だが、その後の交代劇が互いの立場を微妙に変えて行く。最初に動いたのは群馬。54分、小林竜樹に代えて平繁龍一を投入すると、その直後の57分に平繁が頭で合わせる。その動きに触発されたかのように、群馬の動きがガラリと変わる。一方、福岡の最初の交代カードは59分、石津に代えて金久保順をピッチに送り込む。第14節Ｇ大阪戦以降、戦列から離れている金久保にゲーム感覚とゲーム体力を戻させるための起用だったが、攻撃の起点となっていた石津がベンチに退いたことで、それまでの流れがジワジワと変わっていく。

そして、75分を過ぎてからは、試合は群馬のリズム。さらに85分を過ぎてからは、群馬が一方的に試合を支配して福岡をゴール前にくぎ付けにする。はるばる群馬から駆けつけたサポーターも力の限りに声援を送ってチームを後押しする。しかし、度重なるチャンスを作りながらも群馬はゴールを奪えず。結局、スコアは１−０のまま６分間のアディショナルタイムを過ごして、試合終了のホイッスルが鳴った。

さて、Ｊ１昇格プレーオフ圏内を目指す福岡にとって、勝利という結果は何よりも重要なもの。そういう意味では後半戦のスタートとしては文句のない結果だった。しかし「心配の種もある」とプシュニク監督が話すように、目標を達成するためには解決しなければいけない課題もある。それは、試合終盤に気持ちが守りに入り、ただボールを前に蹴りだすだけになってしまう傾向にあること。これは、開幕以来、続いているチームとしての課題だ。その原因をメンタル面の問題だとプシュニク監督は指摘する。前半以上に厳しい戦いが予想される後半戦を勝ち抜き、プレーオフ進出を果たすためには解決しなければいけない課題。これまで、少しずつ変化を積み重ねてきた福岡が、この課題をいかに修正するのか。プシュニク監督の手腕も含めて、注目される点だ。

そして敗れた群馬。「疲れている状況であったり、ピッチがスリッピーな状況の中では、技術レベルが低いなというのが第一印象」と秋葉忠宏監督が振り返るように、イージーミスが目立った試合だった。それでも、平繁投入後にリズムが変わったように、まだまだやれる部分もある。秋場監督も、選手のメンタル面でのリカバリーを強調する。次節は水戸とのダービーマッチ。３連戦の最終戦で勝利を目指す。

以上

2013.07.04 Reported by 中倉一志