残り時間もわずかとなった89分、熊本陣内のペナルティエリア外、右寄りの位置で田中英雄が倒されて神戸がフリーキックを得る。ゴールまでの距離はおよそ35m。前節の長崎戦でも得点を挙げているポポが迷わず枠を狙って右足を振り抜くと、ボールは熊本の選手が3人で作った10ヤード先の壁の脇を抜け、ゴールにこそ届かなかったもののボックス内に転がった。直後、筑城和人と争う形になった杉浦恭平が倒れたところで、岡部拓人主審の笛。熊本にとっては酷な判定だった印象だが、筑城にはイエローカードが示されてPK。杉浦がこれを落ち着いて決め、90+1分、神戸が勝ち越した。その後表示された4分のアディショナルタイム、熊本は高橋祐太郎を最前線にまで出してパワープレーを試みるが、2度目の同点はならず。結果、4連敗で18位に後退となった。
とは言え、「内容自体はそんなに悲観するものではない」と吉田靖監督も振り返っている通り、守備においてはある程度の成果を得たのも確か。ボールへの寄せの甘さや全体のポジションバランス、プレスをかけるタイミング等、ここ最近のゲームで見られた修正すべき点は、練習で重点をおいたこともあり改善されていた。「今日は前の選手も守備を意識するだけでなくて、ポジショニングも含めて皆が同じ方向を向いてやろうとしていた」(矢野大輔)、「全員が声を出して意思疎通ができていた」(仲間隼斗)と、選手たちも手応えを口にしているが、実際、13本のシュートを打たれた中でも神戸の決定機と呼べる場面は前後半を通じて4回ほど。展開としても決して圧倒されたわけではなかった。
それでもやはり上位にいる神戸は、そうした少ない決定機を(しかも早い段階で)確実に得点に結ぶ。14分の先制点はポポと小川慶治朗のスピードとコンビネーションから生まれたものだが、熊本の守備ラインの少しの隙間を逃さなかったゴール。何より大きかったのは、自陣からのボールをワンタッチで小川にはたいたあと、バイタルエリアを斜めに抜けたポポのダイナミックなランニングと正確なラストパスであり、それによって生じたスペースにリターンが来ることを信じて走り込み、ダイレクトでシュートを選択した小川の判断だった。
こうしてまたも早い時間に先制を許した熊本ではあったが、直後に北嶋秀朗の呼びかけでリスタート前に集まって声をかけあい、押し込まれる中でも耐えて自分たちの時間帯が来るのを待った。神戸の早いアプローチを受け、間合いが詰まっていない状態で焦ってボールを離すことでミスも目立っていたため、もう少し落ち着いてコントロールできればという場面もあったのだが、徐々にペースを掴み、40分過ぎにはテンポ良く動かして神戸陣内へ攻め込む形も作っている。
そして折り返した後半立ち上がりの54分、堀米勇輝からのふわりとしたパスを神戸DFラインの背後へ抜け出した仲間が深い位置まで運んで仕掛け、イ グァンソンをかわしてニアへ低い弾道のピンポイントクロス。これに合わせたのは、長い距離を走ってきた原田拓だ。GK徳重健太の前のスペースをつき、左足のアウトで決め同点。この場面では原田がその役割を果たしたと言えるが、ゲームを通して神戸との違いとして感じられたのは、個々の技術やスピード、判断の質といった面もさることながら、ボールをあずけたあとにどれだけ動けるか、すなわちパス&ゴーの「ゴー」の部分。特にシュートわずか2本に終わった前半はボールを持っている選手へのサポートが全体的に遅かったと言わざるを得ない。仲間が「厚みのある攻撃ができていない」と試合後に話しているように、こうした部分での量を増やすことが必要になってくる。神戸はその点、都倉賢や田代有三に入ったあとにはサイドやボランチのサポートがあり、奥井諒と林佳祐の左右のサイドバックも、前につけたあとには外側からの追い越しや中へ入る動きを見せて熊本の対応を動かし続けていた。
同点としたあと、北嶋に替えてファビオを投入し高い位置で起点ができるようになった熊本は69分、そのファビオが抜け出して徳重と1対1の場面を迎えるが決めきれず、また85分にも齊藤和樹が左で粘ったが仲間のシュートはバーを越えた。一方の神戸も、77分、78分に迎えた得点機で南雄太のセーブに阻まれるなど、精度も欠いて突き放せないながら、「どんな形でもいいのでゴールを取って勝ちたかった」(安達亮監督)との思いが実り、冒頭のような形で勝ち越し。首位のG大阪と勝点差2の2位でシーズンを折り返すが、失点した形にも現れている守備と、攻撃ではコンビネーションからの崩しをより高めたい。田中が試合後にサポーターに向けて「まだ何も手にしていない」と話していたようだが、確実に勝点3を積み上げていくためにも、さらなる質の向上が求められよう。
熊本にとっては、悪くない内容だっただけに痛い結果であることは間違いない。まだまだ判断でも技術でも遅れやミスは少なくなく、1巡めを終えての現在の順位は謙虚に受け止め、後半期に向けて修正していく必要がある。それでも、3連敗という非常に厳しい状況、さらには雨という悪天候にも関わらず、神戸サポーターを除いても7,000人近くがスタジアムを訪れ、声を出してサポートし、試合後には次に向けて力を与えてくれた。それは、熊本という土地においてそれだけの価値ある存在との思いが込められているからだということも、忘れないでいたい。「まだ半分終わっただけなので、これからも修正しながら、いいチームを作っていくつもりです」と吉田監督が結んだように、残りの半分は自分たち次第でどうにでも変えられる。再戦は5ヶ月後、11月24日の最終節。単に「敗れた借りを返す」のではなく、勝ちきることの大事さを教えてくれた神戸に真っ当な返礼をするために、少しずつでも前に進もう。
以上
2013.06.30 Reported by 井芹貴志
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