栃木を窮地から救ったのは、エースの狙いすました一撃だった。
「GKの対角線上に立ち、相手にとって厄介なポジションにいようと思っていた。頭ですらすだけで入ったので、半分はクリス(クリスティアーノ)のゴール」
約3カ月ぶりにゴールネットを揺らし、自身のJ2通算250試合目となるメモリアルゲームでの敗戦を免れた。偶然にも見える廣瀬浩二のゴールだが、いつでもコースを変えられるように、FKのトレーニングでは周到な準備をしていたと言う。まさに、日々の積み重ねと、緻密な計算が生んだゴールだったと言える。土壇場でも冷静さを失わずに、嗅覚を働かせた廣瀬。プロとして生きて行く上で身に付けた抜け目のなさを、勝負が懸かった局面で発揮した。
「勇気を持ってチャレンジしているけど、あまりカチッとしたDFが出来ていなかった」(松田浩監督)
栃木移籍後、初先発となった久木野聡と廣瀬の特性を活かし、水を含んだピッチコンディションを考慮しながら栃木はDFラインから長いボールを多用。相手のDFラインを押し下げることで徐々にペースを握って行く。16、17分に立て続けに廣瀬がゴールを脅かすと、25分に均衡は破れた。先制点を挙げたのは、三都主アレサンドロ。開幕以来のスタメン指名に結果で応えた。クリスティアーノのクロスをトラップすると、まるでFKを蹴るかのように左足を振り抜いた。これが相手DFの足に当たり、そのままゴールへと吸い込まれた。先手を奪われた京都だが、同サイドを突く本来のスタイルに加え、4‐3‐3の優位性を活かしてゴール前に迫った。特にサイドに張り出した駒井善成と山瀬功治の突破が光り、栃木の守備網を何度も潜り抜けた。30分、42分、45分に決定機をこしらえる。ところが、栃木の決死の守備に阻まれ、ゴールを割ることはできなかった。
後半に京都は連続得点で逆転する。その要因を山瀬は、こう答えた。
「前半と後半でそんなに攻撃も守備もやり方は変わらなかった。やり続けた結果、先制点と追加点に繋がった」
前半からの継続性。それは間でボールを受け、前を向いて仕掛ける姿勢に他ならない。ハーフタイムを挟んでも、京都は自分達を見失うことはなかった。対照的だったのが栃木だ。松田監督は、こう悔やんだ。
「前半を1―0で折り返せたところを、そのまま続けて圧倒してしまう力があれば、もっと良かった」
チャレンジする姿勢が薄まり、「押し込まれて引いてしまった」(廣瀬)。そのため、自陣に閉じ込められてしまう。苦しい時間を耐え忍び、カウンターを撃ち込んで盛り返す。それが栃木の真骨頂だが、相手を脅かせないまま65分、70分に被弾。せっかく奪った先制点をフイにしてしまった。アクシデントが重なり、先発予定だった中野洋司に続き菅和範も失い、急きょ西岡大輝が投入され、DFラインが安定感を取り戻すのに時間を要したにしても、京都につけ込まれすぎた。昨年までであれば、逆転された時点でほぼ大勢は決していた。だが、今年の栃木には粘り強さがある。アディショナルタイムに廣瀬の同点弾が飛び出し、辛うじて勝点1を拾った。このメンタルタフネスは後半戦に活かしたいところだ。
「最後の最後まで自分たちがオープンにならずに、自分たちのゲームで終わることができないとなかなか難しい」とドローに対して大木武監督は選手に注文を付けながらも、「最近の中ではサッカーらしいサッカーができた」と4‐3‐3に手応えを得たようだ。山瀬も「(3トップは)やっていて面白い」と好感触。前節の水戸戦では途中でトーンダウンした攻撃が、最後まで落ちなかった点は収穫だろう。流動的に選手が絡む攻撃には迫力と怖さがあった。攻から守への切り替えの際に甘さが散見されたものの、上位追撃に向けて京都が志向する形が見えた一戦だったと言える。
3戦連続ドローに終わり、3試合とも複数失点を喫した栃木。
「複数失点してしまうと、どうしても勝つのは難しくなる。守備の部分でもう少し修正をしないといけない」(GK榎本達也)
京都戦では軽率なミスは出なかったが、その代わりに不用意なファウルから危険な位置でのFKを与え、それが失点を招いた。着実に勝点は積み上がっているが、自動昇格圏内との差は開くばかりだ。差を縮めるには勝点3が求められ、栃木としては堅守を取り戻す必要がある。「失点はDFだけの責任ではない。チームとして修正したい」とは廣瀬。中断期間はなく、すぐに後半戦は幕を開ける。キャンプは行えないし、時間も十分にあるわけではない。その中で前半戦に出た課題を克服するのは簡単ではないが、上位追撃に向けてやるしかない。「前半45分、無失点」のノルマは達成した。次は「90分、無失点に抑え」、1‐0、あるいは2‐0で勝つこと。勝点3を得るのに必要不可欠な、引き締まった試合がしたい。
以上
2013.06.30 Reported by 大塚秀毅
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