「幸せだね」
雁の巣球技場でメディアの囲み取材に応じていたマリヤン・プシュニク監督は、茶目っけたっぷりに話した。それは前節・富山戦の２つのゴールシーンについての感想を求められた時のこと。福岡がセットプレーからゴールを奪ったのは今シーズン初めてだった。
「ＣＫ、ＦＫから得点を奪うまでに時間がかかってしまった。ここまで多くのエネルギーと時間をセットプレーに割いてきたが、サッカーにおいてセットプレーは非常に大事。これからも、もっとトレーニングを積んで行きたい。そうすることで、もっと勝点を得ることが出来るはずだ」
戦いながら、少しずつ、チームとしての成熟度を上げている福岡にとって、セットプレーからの得点は大きな収穫。富山戦は、またひとつ手応えを掴んだ試合だった。

そして、チームは引き続き、いい状態でトレーニングを積んでいる。徹底されているのは、いまや福岡の代名詞になった高い位置からのハイプレス。コンパクトなゾーン。連動した守備。そして奪ってから縦に速い攻撃。それを何度も繰り返しながら、福岡モデルとも呼べる戦い方の構築に余念がない。

攻撃の中心にいるのは、２試合連続ゴール中の石津大介だ。一時はコンディションの悪さも感じさせていたが、完全に復調。ゴール前で仕掛ける姿勢と、独特のゴール感覚がよみがえった。「Ｇ大阪戦の２ゴールが自信になった。それがいい方向へつながっている」とは本人の弁。岐阜戦では３試合連続ゴールの期待がかかる。

セットプレーからゴールを演出するのは尾亦弘友希と船山祐二。尾亦の左足から繰り出される低く、速く、鮮やかな弾道を描いて送られるクロスボールは、相手ＤＦに取って脅威を与え続けている。そして「まだホームでは決めていない。早くホームでゴールを決めてサポーターに認められたい。そのために結果を求めてやるだけ」と話すのは、前節、直接ＦＫからゴールを奪った船山。ゴールだけではなく、攻撃を組み立てるコンダクターとしての期待も大きい。

守備で注目を集めるのは堤俊輔。守備のユーティリティプレーヤーとして、ここまで13試合に先発出場。ＣＢ、ＳＢ、ボランチとあらゆるポジションでプレーしてチームの守備を支えている。高い足元の技術とサッカーセンスの良さを活かしてピンチを未然に防ぐだけではなく、時にはゴール前で体を張った守備で得点を許さない。ここまで14失点と安定感を見せる守備は、堤なくしては語れない。

それでも、プシュニク監督は岐阜に対して警戒を緩めない。
「岐阜との戦いは、これまでで一番難しい戦いになる。いまの順位は彼らの実力を正確に表しているものではないし、勝利から遠ざかっていることもあってモチベーションは高いはずだ。戦い方を見れば、前節は大量失点を喫したとは言え、守備は堅く、ボールを奪ってからの速いカウンターという武器も持っている。前線には高さに強い選手もおり、セットプレーも要注意だ。彼らにとって失うものは何もなく、我々はベストを尽くして臨まないとといけない。そして、アウェイでの勝利も、ホームで勝てなければ何の意味もなくなってしまう」

得失点、順位等、数字の上での比較だけなら福岡優位は動かない。しかし、サッカーは、いつも数字だけでは測れない。相手をリスペクトせずに戦えば、足下をすくわれる。90間に渡って、相手を尊重しつつ、自分たちの力の全てを発揮することが勝利に必要なことは言うまでもない。勝負の鍵を握るのは先制点。福岡にとっての鍵は、いかに早い時間帯にゴールを奪うかということ。そして、岐阜にとってはスコアレスの時間を、どれだけ長くするかが勝利への鍵となる。福岡がいかに攻め、岐阜がいかに守るか。戦いの焦点はそこにある。

加えて、６位以内に入ってプレイオフでのＪ１昇格を目指す福岡にとって、岐阜、熊本と続くホーム２連戦は、勝点６が必要な試合。その後に続く、栃木、岡山との上位対決に向けて、内容・結果ともに欲しいというのが福岡にとっての正直な気持ちだろう。そして何よりも、ホームで熱い声援を送り続けるサポーターとともに、勝利の喜びに浸りたいという気持ちは強い。いつものように、監督、スタッフ、ベンチメンバー、ベンチの外で見守る選手、そしてレベルファイブスタジアムに集う仲間とともに、一丸となって戦いたい。見つめるものは勝利だけだ。

以上

2013.05.25 Reported by 中倉一志