既に大会からの敗退が決まったいま、この一戦で両チームが見出すべきものは何か。名古屋はそれを「結果」に求め、新潟は「内容」に求めた。そのスタンスの差がそのまま試合のディテールとなった、興味深いゲームだった。

この一戦にかける名古屋の意気込みは予想以上だった。中2日でリーグ戦を控える状況ならば、主力を温存するのはもはや常套手段。若手の育成の場と、控え選手のモチベーション維持に有効活用するのもプロの戦い方のひとつである。しかしストイコビッチ監督はリーグ戦4連敗中という苦境から一刻も早く脱出するため、一切の手抜きなしで勝利することを最優先とした。リーグ前節の鹿島戦からのメンバーの入れ替えは、ボランチとして起用されたダニエルのみ。控え選手にすら入れ替わりはなく、ただひたすらに勝利だけを求める姿勢がメンバー表からひしひしと伝わってきた。

一方でリーグここ5戦で2勝1分2敗と五分の成績を残している新潟の柳下正明監督は、リーグ戦を視野に入れた采配をふるってきた。DFラインはレギュラーのセンターバック2名が負傷したことでそもそも入れ替えが決定していたが、さらに両サイドバックに村上佑介と坪内秀介を起用したことで、4人すべてを入れ替えることに。中盤でもレオ　シルバの相棒を若い酒井宣福とし、右サイドハーフに藤田征也、ツートップの一角に鈴木武蔵を選ぶなど、こちらは主力の温存と若手の経験がテーマのメンバー構成でヤマザキナビスコカップ最終節に挑んだ。

試合の趨勢は前半で決まった。開始3分のFKから名古屋がオウンゴールで先制すると、その後もミスの多い新潟につけこみゲームを支配。23分、24分と立て続けに新潟にビッグチャンスを作られるも、その反撃で追加点を奪うしたたかさを見せる。この日の前半は特に右サイドからの仕掛けが上手く循環していたが、24分、田中隼磨の1対1から中央の藤本淳吾を経由し、最後は玉田圭司が冷静に流し込んで追加点。チームとして実に公式戦7試合ぶりの2得点目を挙げ、支配力を高めた。その後41分にはレオ　シルバに目の覚めるようなミドルシュートを叩きこまれたが、それ以外は守護神・楢崎正剛の好セーブにも助けられつつもリードを保って前半を終える。

後半は両チームともペースダウン。この日は24.3度というやや暑いくらいの天気も影響したか、ともに30分までに交代枠を使い切り、時間とともに決め手となるプレーは減少していった。その中でも攻守にわたって意図を感じるプレーを見せていたのは新潟で、レオ　シルバは「良い守備はできていた。名古屋が2回のチャンスを活用し、ウチは1回だったということ」と胸を張ったが、それだけにイージーなミスでチャンスをフイにしているのが何とも歯がゆかった。名古屋はダニエルがボランチとしてのプレーにまだ慣れておらず、特にビルドアップの面では苦労した。ただし、「今日は裏パスへの意識づけができた。こうでもしないと厳しいというのを頭に残してくれたらと思って蹴ってはいたんです」と阿部翔平が語るように、ケネディが空けたスペースを意識した攻撃の新たな一面は見せた。パス回しによる崩しの“地上戦”、ケネディの高さを活かした“空中戦”に、裏抜けという“飛び道具”を加えたことは、不振の攻撃陣に対するカンフル剤になりうる。これまでフリーランが無駄走りになることが多かった小川や藤本がボールに触る回数が増え、チャンスメークの数自体も増えることが期待できるからだ。試合内容では新潟に軍配が上がる試合となったが、名古屋も内容面でそれなりに得るものはあったのである。

かくして試合は2−1で名古屋が勝利。何より結果が欲しかったストイコビッチ監督は「悪い流れを断ち切り、自信を取り戻す」勝利だったと胸を張った。「勝ち癖の中でやってきたオレたちには、この状況はなかなかなかったこと。この勝利はデカい」と田中隼は話したように、勝ち方を忘れてしまったようなチームには、勝ったという事実が何よりの特効薬と言える。逆に「負けはしたけど、まずまずのゲーム」と淡々と語った柳下監督は内容に手応え。「もう少しプレッシャーがあるゲームの中でも、今日何度か見せた自分の特徴を出せるかどうか」と若手の出来にも及第点を与えるなど敗戦の中にも収穫は多い様子だった。勝った名古屋も負けた新潟も一定の手応えを得られたことは、消化試合となっていた試合の“戦果”としては上々のもの。中2日で迎える中断前最後となるリーグ戦第12節の戦いぶりに、それがどのように反映されてくるのか楽しみだ。

以上

2013.05.23 Reported by 今井雄一朗