11戦無敗で3位の長崎と、ここまで今ひとつ波に乗りきれない7位の京都の戦いが今年3月に落成した諫早市の新スタジアム(長崎県立総合運動公園陸上競技場)ではなく、長崎がJFL時代に主戦場としてきた長崎市営かきどまり陸上競技場で行われた。
新スタジアムと異なり、かきどまりには屋根はない。そんな時に限って予報は雨。客足に影響が出ないかと心配されたが、幸い午前中でなんとか雨は止んだ。
が、かきどまり名物の濃霧がスタジアムを覆う。昔からの長崎のファンならば、2012年7月1日に濃霧で延期となったカマタマーレ讃岐との試合が脳裏をよぎったはず。霧が発生しやすい条件は、周囲が山に囲まれていており、風が弱い時だ。このとき地面付近が適度に湿っていると、空気が飽和に達して霧が発生するという。
確かに、この日はそんな条件がぴったり当てはまった。
運営は相当気をもんでいたようだが、どうにか視界が広がり予定どおり午後1時にキックオフされた。
おそらく遠くからやって来た京都のサポーターが、最も胸を撫で下ろしたことだろう。
試合開始直後、最初にペースをつかんだのは白いアウェイ用ユニフォームをまとった京都。同サイドで細かくパスを回して攻め上がるスタイルがタッチライン際で展開された。長崎の選手は前から積極的にプレスにいくも個人技で上回る京都にいなされる。長崎はどうにか反対サイドに常に開いた選手を置いて、カウンターに備えるもなかなか引っ掛けることが出来ずにいた。
そんな攻防が幾度か繰り返されていた前半17分。京都は右サイドのゴールまで約30メートルの位置でFKを獲得すると、福村貴幸がインスイングの若干巻いたボールをゴール正面に蹴り込む。すると、J'sGOALで4月の月間MIPを獲得した長崎のGK金山隼樹がパンチングしようと飛び出すもボールに触ることができず、それがDF山口貴弘の頭に当たってオウンゴールに。京都はラッキーな先制点を獲得した。
すると、長崎も目が覚めたのか果敢な攻撃を開始。右サイドの金久保彩は失点直後の18分にミドルシュートを放つが惜しくもバーに嫌われる。24分にはゴール前30Mの所でFKのチャンス。3人が絡む高度にデザインされたセットプレーだったが、金久保のシュートはコースが悪くキーパー正面に。この日最も落ち着いていた京都の韓国人GKオ・スンフンに弾かれた。
大木武監督率いる京都は細かいパスを繋ぎ、古都の雰囲気とよく似た繊細なイメージがあるが、守備の場面では体を投げ出すスライディング多く見られる。特にCBのバヤリッツァはカバーリングに長けており、この試合でもサイドで何度も長崎の選手の足元からボールを奪っていた。
ところが京都はこの後、守備ばかりの試合となってしまう。
長崎は高い位置でボールを奪えるようになると、ショートカウンターを発動。何度もチャンスが続いた。42分には左サイドを神崎大輔と山田晃平がサイドを併走する場面も見られるなど、ポジションのバランスは悪いながらも、これでもかと京都ゴールを攻め続けた。
後半に入っても京都を追いかけるという構図に違いは生まれなかったため、長崎は選手交代で打開を図ろうとするようになった。57分に右サイドでスピードに乗った攻撃ができる古部健太と、今日は動きがいまひとつだった神崎を交代させる。これによってこれまで右サイドだった金久保がシャドーストライカーとなる。古部はすぐさまグラウンダーのクロスでチャンス演出していた。65分には点を狙うために4得点とチーム得点王タイの佐藤洸一が小笠原侑生と交代した。極めつけは、81分。7年ぶりのJ復帰となるベテランの有光亮太がピッチに登場。スタンドは大いに沸いたが、追いつくことはできなかった。
京都は前線に入るロングボールを最終ラインが体を使って抑え、2列目との連携を分断させることに成功。特にCBの染谷悠太とバヤリッツアが長崎の前に立ちはだかった。大木監督は「今日は守ることしかしなかった」と嘆いたが、濃霧の中で堅い守備を見せつけ、確かな勝点「3」を掴んだ。今季2度目の連勝で、築き挙げつつあるオーガナイズされた守備網に手応えを感じていると同時に、山瀬功治が「サッカーでは劣勢のチームがセットプレーで点を取って勝つことが往々にしてありますが、今日はそういう試合でした。どうやってセットプレー以外でチャンス作っていくかは問題です」と話しているように、裏に抜ける怖さや、大きな展開を伴った試合運びなど新たな課題と対峙する時だと感じているはずだろう。
この試合で長崎は無敗記録を11で止められたが、選手で気にするものはおらず、内容が良かっただけに、すぐに次の千葉戦に向けて切り替えていたのが印象的だった。
なお、この試合ではチャンスになると電光掲示板に大きく「チャンス タオルを回そう」と掲示がされ、サポーターがタオルマフラーをぶんぶん回すという、アメリカの野球場のような応援風景も見られた。長崎の応援文化もチーム同様、今始まったばかりだ。
以上
2013.05.20 Reported by 植木修平
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