「何もかも初めてで、誰もプロリーグのことがわからない状況からのスタートでしたよね。当時のことで一番印象に残っているのは、新人研修会に奥寺(康彦)さんが講師で来てくれて、プロとはどういうものなのかと話してくれたこと。まだ漠然として聞いていましたけれど」
そう話してくれたのは石川研GKコーチ。沖縄国際大学卒業後の1992年に、沖縄県出身初のJリーガーとして名古屋グランパスエイトに加入。その後、プランメル仙台、ベガルタ仙台、水戸ホーリーホック、ジェフユナイテッド市原でプレー。引退後は指導者として活躍し、2012年からアビスパ福岡のGKコーチとして指導に当たっている。
学生の頃は、日本にプロサッカーリーグが誕生することなど、誰もイメージできていなかった時代。当時のことを次のように振り返る。
「大学4年生の時に、木村和司さんがプロ契約をしたとか、JR東日本と古川電工がプロに参入するとかいう新聞記事を目にはしていましたけれど、全然ピンと来なかったですね。それが、あれよあれよという間に形になって。大学3年生の頃から実業団チームからお誘いは受けていたんですけれども、その中でJリーグに参入するのは名古屋だけだったので加入を決めたんです。全くわからない世界でしたけれど、怖さはなかったですね。それよりも、サッカーで生活できる喜びの方が大きかったです。当時はプロに対して漠然としたイメージしか持っていなかったんですけれども、入ってみたらサッカー1本の生活。それが、すごくうれしかったのを覚えています。それと同時に、1992年に行われたヤマザキナビスコカップを通して、勝負に非常にシビアな世界だなということも学びました」
Jリーグデビューは1995年のC大阪戦だった。
「その試合自体は普通でした。それよりも、1年目のサテライトリーグに出た時のほうが印象深いですね。あの頃はサテライトリーグも有料だったし、観客も入っていた。僕にとっては、それがプロとして戦った最初の試合でした」
それから20年。選手・指導者時代を通じて、アーセン・ベンゲル、イビチャ・オシムら一流の指導者らと出会い、様々なものを積み重ねてきた。それが自分の財産であり、それを伝えて行くことが、これからの自分の責任だと話す。
「この20年間で日本サッカーはレベルアップしたと思います。海外に出る選手も多くなってきたし、ワールドカップにもコンスタントに出場する力が付いてきました。けれど、デットマール・クラマーさんが日本にやってきた時(1960年)の本を読んだら、オシムさんが言っていることと同じなんです。ベンゲルさんも同じことを言っていた。プシュニク監督がよく言っていることもそうなんですけれども、日本と海外の一番の違いは、いかにしてゴールを勝ち取るかというプレーの根本にあるメンタリティーの違い。プレーのためにプレーするのではないということ。それが、いまだに言い続けられている。一部のレベルは上がっているけれども、全体に対する浸透度はまだまだだなと感じます。たまたま、ベンゲルさんやオシムさん、そしてプシュニク監督と一緒にいたことで、そうしたことを経験できたのが、自分の20年間の財産ですね。それを、これから僕たちが伝えて行く責任を感じています」
最後に、これからのJリーグに期待することを尋ねてみた。
「ACLを含めて、ヨーロッパのクラブとも対戦できるようなインフラを、いずれFIFAが整えてくると思います。それに打ち勝って世界にアピールすることができればいいなと思いますね。僕の中では、それを沖縄のチームがやれるようになればと思っています。地域を代表して世界の強豪と対戦する。そういうところに向かって勝負ができたら、すごくロマンがあるじゃないですか」
もしかしたら、その時、沖縄のチームの指揮を執っているのは石川コーチかもしれない。
以上
2013.05.18 Reported by 中倉一志
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