お互いに勝利を欲した今節は、シュート数がその内容を物語っている。シュート数は松本が16本、対する北九州は9本。しかしゴールの数は同じ1点ずつだ。

試合開始早々、14分の北九州の先制点は見事だった。右サイドのスペースを突いたキム ドンフィからのクロスを多々良敦斗が頭ではね返すものの、クリアボールの先にいたのは八角剛史。そのセカンドボールをタイミングよくダイレクトで右足一閃。躊躇うことなく放たれたシュートはクロスバーに当たりながらもゴールへと吸い込まれた。「あのシュートは羨ましいなあ……。うちの選手は誰も打てない」と試合後に反町康治監督も振り返るように、このゴールは6連敗中だった北九州の選手たちを精神的に有利にした。柱谷幸一監督には「まず守備からスタートする。8人でブロックを作って、奪ったボールを2トップのスピードでカウンター」というゲームプランがあったからだ。

そのゲームプランが変えざるを得なくなる誤算が起きたのは43分。森村昂太が2度目の警告を受けて退場となったことだ。松本にとっては1人多い状況となったことで俄然優位に立ったとも思える。しかし、後半開始から北九州は動きの良かったキムをあえて下げて、左サイドハーフに松本陽介を配置する4-4-1にフォーメーションを変更。前半以上に守備の意識を増し、「やる事がはっきりした」（渡邉将基）。守りを固めて逃げ切ろうという策で選手全員が同じベクトルを向いた北九州に対抗すべく、松本も塩沢勝吾を投入し、長沢駿との長身2トップでターゲットを増やすと、66分には、コーナーキックからのゴール前の混戦のなか、喜山康平が3年6ヶ月ぶりの得点をあげ、まず試合を振り出しに戻す。

しかしその後は、長身2トップを生かせたとは言い難い。確かにロングボールに対して競り勝てるだけの高さと強さはあり、惜しい場面も作った。しかし、それ頼りの単調な攻撃では消化不良に陥ってしまう。ロングボールも、精度に欠ければ武田博行への絶好のプレゼントボールだ。ここで遠目からのミドルシュートを積極的に打つことでブロックを敷く北九州の最終ラインの動揺を誘うなど、アクセントをつけたバリエーションに富む攻撃が見せられれば、結果もまた違ったものになっただろう。フィニッシュの精度は一朝一夕に向上するものでないだけに、攻撃パターンをもっと増やすことで相手の隙を伺いたかった松本だが、そこはアイディア不足という課題が露呈した形だ。

北九州としては1-0のまま逃げ切れれば良かったが、「我々の戦い方を良く研究してきた」（反町監督）なかで得たアウェイでの勝点1を、浮上に向けての一つのきっかけとしたい。1人少なくなるまではポゼッションサッカーでペースを握る“らしさ”も見せた。またキムと柿本健太の2人は前線において脅威を与える存在で、この2トップは今後の北九州浮上の鍵となりそうだ。

松本はアルウィンで勝てていないことで煮え切らなさが漂うものの、この勝点1で10位へと順位を上げた。ここまで4試合で勝点8は上々の数字だ。また負傷で戦線を離れていた喜山康平がホームで完全復活を印象付けたことは大きな収穫だ。同点弾の場面はもちろん、空いたスペースを埋める仕事で汗をかくなど、この日は出色の働きを見せた。次節は3日後。厳しい日程となったが、ホームで出来ることをプラスに捉えて、気持ちを切り替えて臨みたい。

以上

2013.05.13 Reported by 多岐太宿