當間建文が、大和田真史が、菅和範が、クリスティアーノが、次々とピッチに倒れ込んだ。死力は尽くした。だが、土壇場で勝点３は掌からこぼれ落ちた。岡山の無敗記録を前々節ストップさせた栃木だが、今回は長崎の不敗記録を１０で断つことは叶わなかった。２位・長崎との上位対決で勝点３を取り逃したことに対して「悔しい」と大和田が力なく話せば、近藤祐介は「もう少しアラートに対応できれば防げた。勿体ない」と９０＋３分に被弾したＣＫのシーンを悔やんだ。前節に引き続き、栃木は４位から浮上する機会を逸した。

今週のトレーニングで落とし込んだ３‐４‐３対策を、序盤から栃木はピッチで具現化した。浅い長崎のＤＦラインの背後へ執拗に働きかけた。特に廣瀬浩二が３バックの両端のスペースを突く動きは効果的だった。先制点も狙い通りの形から生まれた。ＧＫ榎本達也のフィードを近藤がフリックし、左のスペースへ流れたボールに廣瀬が食らい付く。金久保彩からもぎ取ったボールを内へ返し、右足で豪快に突き刺したのはクリスティアーノ。前節の愛媛戦で最初に訪れた絶好機を逃した背番号１１が汚名返上となるゴールを決め、栃木が狙い通り先手を取った。

愛媛戦では機能不全に陥った守備は、中盤に出場停止明けのパウリーニョが復帰したこともプラスとなり機能した。ほとんど相手に縦パスを入れさせず、ロングボールへの対処もスムーズだった。一気に押し切りたかった栃木だが、一瞬の隙に付け込まれてしまう。１８分、チャ ヨンファンと大和田の連携が合わず、「あそこでのスクウェアのパス、横パスは狙っていこう」と試合前に確認していた山田晃平に同点弾を叩き込まれてしまう。

安易なミスからゴールを献上した栃木だが、浮足立つことはなかった。前線からの連動した守備は効力を保ち続け、最終ラインの前にフィルターがかかり、長崎に攻め手を与えなかった。守備でリズムを整え、迎えた４０分に今度は相手のミスに乗じた。自陣からカウンターが発動。クリスティアーノ、廣瀬を経由したボールからゴールを挙げたのは杉本真。抜群のシュートセンスが追加点をもたらした。勢いに乗った栃木は４４分、再び杉本にチャンスが巡って来た。ところが、ボールを捉え切れず。「強いて言えば、もう１点チャンスがあった時に決め切れていれば」とは近藤。逸機したことが後々まで響くことになる。

前半に仕留め損なった栃木だが、後半も高い守備意識は変わらず。守備ブロックに相手をはめ込んでは、サイドから攻め入った。しかし、「いいリズムの時に点を取ることがサッカーでは大事」と杉本が言うように、自分達の時間帯で加点できずにいると、徐々に天秤の針は長崎に傾いた。途中投入の佐藤洸一が立て続けにゴールに迫り、強引に流れをたぐり寄せ、アディショナルタイムにＣＫから高杉亮太が劇的な同点弾。真骨頂の豊富なスタミナとしぶとさで、長崎が勝点１を拾った。

無敗記録が継続された長崎だが、「負けてはいないけど、２失点したことは考えないといけない」とは高杉。準備したことと異なる状況に晒されたことで、「前半は全然、守備がハマらなかった」。想定外の事態に直面した時に、どんな対応をすればいいのか。今後は相手チームの研究がさらに進み、栃木戦のように思うに任せない事態が多々起こるだろう。そこで試されるのは臨機応変さだ。「最後まで諦めない気持ちや姿勢、絶対に勝たないといけないという姿勢は、誰もが持っている」（山田）。上位をキープするために、試合中の修正力を磨いていきたい。

栃木は前節の反省を活かし、組織的守備の立て直しを図ることはできた。「流れからやられることはなかった。同点だけど向こうが勝ったように感じる試合。でも、内容的に悲観することはない」と言う近藤の言葉は、決して強がりではない。「コントロールできていた試合だった」と松田浩監督も一定の評価を与えている。愛媛戦から持ち直せたが、持ち越された課題もある。安易なボールロストだ。１失点目が顕著だが、ビルドアップで失点を招いてしまったのは痛恨。後半もボールを走らせる冷静さがあれば、相手の体力を削ぎ落して逃げ切ることも、決定的な３点目をマークすることも可能だったかもしれない。だが、「結構アバウトな形でボールを放り込んだり、ちょっと淡白にボールを失うことが多かった」（松田監督）。ゲームの進め方、終わらせ方に関しては、今後に向けて突き詰める必要があるだろう。連敗を回避したとはいえ、このままズルズル順位を下げるわけにはいかない。愛媛戦と長崎戦で払った高い授業料を、次の熊本戦では無駄にしない戦いが望まれる。

以上

2013.05.13 Reported by 大塚秀毅