引き分けという結果はポジティブにもネガティブにも捉えることができるものだ。例えば連敗中なら前向きに、連勝中なら後ろ向きの印象にもなる。では、ともに1得点ずつを挙げてのドローに終わった名古屋と広島の一戦は、両チームにとってどのような感触のものだったか。勝敗がつかなかった以上、論ずるべきは試合内容である。
前半は良く言えば一進一退の攻防が続いた。この日のピッチ上空は強い風が吹いており、風上に立った名古屋が環境面では優位に立った。またホームの利を生かし前からのプレッシングを積極的に展開し、低い位置からポゼッションを開始する広島から自由を奪いに出る。広島は火曜日にウズベキスタンでAFCチャンピオンズリーグを戦っており、体力的に厳しい状態での試合だった。その一戦のメンバーとは半数以上が入れ替わっていたためか、森保一監督は「問題なかった」と語ったが、森崎和幸は「今日は動きが重かった」と感じており、やはり影響はあった様子。しかし名古屋も水曜日に鹿島でのナイトゲームを戦っており、この一戦までのトレーニングは前日のみ。決して体力的に万全とはいえない状況だったが、それでもウズベキスタン帰りのチームよりは走れた。
かくしてまず試合を優勢に進めたのは名古屋だったが、先制点はどちらにも生まれない。フィールドプレーヤー10人が速やかに帰陣し待ち構える広島に対し、名古屋は攻撃のアイデアに乏しかった。ケネディにボールを集めるでもなく、パスワークで決定機を作るわけでもない。玉田圭司が「試合展開的には悪くなかったと思うけど、最後の工夫が足りない。良い崩しになっても、結局最後はクロスが多い」と振り返ったように、どうフィニッシュしたいのかが不明瞭だった。対してカウンターに徹した広島も、浮き球が戻ってくるような強風にも展開を阻まれシュートはわずかに3本。名古屋も4本とシュート数自体に差はなかったが、ピッチの支配率としては名古屋が相手をやや上回った印象の前半だった。
風向きが逆転した後半は、早々に名古屋が試合を動かした。3分、ダニルソンが玉田との縦のワンツーで抜け出し、強引なドリブルでペナルティエリアへ侵入。グラウンダーの折り返しは中央のケネディの足先をかすめたものの、その後ろに詰めていた小川がきっちり合わせて先制。前半にはなかったダイナミックな展開が生んだ得点に、楢崎正剛は「自分のクオリティを信じてリスクを冒して、チャレンジして、仲間を信じて走れば得点は生まれる」と賛辞を惜しまなかった。リスクを回避するあまりポゼッションの横パスが増えることは、カウンター狙いの広島にとってはむしろ好都合なもの。そこでチャレンジされる方が怖いということを、百戦錬磨の守護神は知っていたのである。
だが、60分に生まれたビッグチャンスが、試合の流れを変えてしまう。後半から出場していた田中輝希のスルーパスに玉田が抜け出し、どフリーでGK西川周作との1対1を迎えた場面だ。「上を抜ければと思ったんだけど。今回はオレの負け」。玉田はループシュートを狙ったのだが、西川の冷静な対応の前にまさかの失敗。追加点間違いなし、と思われた決定機を外したことで、試合の流れは広島に傾いた。7分後、闘莉王の自陣でのパスミスを拾った高萩洋次郎が素早く佐藤寿人につなぎ、最後は青山敏弘が糸を引くような低い弾道のミドルシュートを突き刺し同点に。玉田のシュートが外れた瞬間、自らのことのようにタッチライン際にうずくまったストイコビッチ監督は、「あのシーンを皮切りに守備はスローになった。その心の緩みを突かれて失点を許してしまった」とターニングポイントを苦々しく振り返った。
しかし広島は至って冷静にその時を狙っていたのである。「後半立ち上がりに失点しましたけど、そこから崩れないで2失点目をしないように、隙をうかがっていた。時間もけっこうあったので」とは千葉和彦の証言だ。これは「広島というチームは守備をしっかりと構築しながら、その中でミスを待ち、得点を狙ってくるチームだということを改めて思い知った」というストイコビッチ監督の言葉と一致する。楢崎もまた、「一番の問題は“ミスをしちゃいけない”という精神状態で、ミスを待っている相手と戦っていること」とメンタル面での問題点を指摘。広島が冷静さを失わず、ポジティブな考えで試合を進め、同点ゴールを手にしたのとは好対照だ。「1失点で踏ん張っていれば、何かしらチャンスがある」と水本裕貴は語ったが、粘り強く勝機を見出す勝者のメンタリティーを、広島はしっかりと身に着けてきていることを感じさせた。勝てるチャンスを逃した面もあるが、広島にとってこの勝点1はポジティブなものだと言えるだろう。
名古屋の選手たちは内容については「良かった」と口を揃えた。前線からのプレスがはまった時間もあれば、ポゼッションを安定させて広島を押し込んだ時間帯も作った。先制点の形は理想的だ。2点目を奪うチャンスも1度ではなかった。今季も変わらぬ強さを見せる昨季王者を相手に、互角以上の戦いを演じられたことは、開幕当初の低迷ぶりからすれば及第点ということなのだろう。もちろん勝てた試合でもあったため、総意としてはこういうことになる。「相手のGKが頑張るとか、そういう状況すら今まではあまりなかったから、前向きに考えたいところはある。でもいろんな意味でこの試合は勝たなきゃいけなかったと思うし、もったいなかったなと思うところの方が強い」(楢崎)。名古屋にとってこの勝点1は、決して満足いくものではないが悲観するほどではないといったところだった。
ヤマザキナビスコカップの次節が休みの名古屋は、これで激戦の4月が終了。この1ヵ月は、振り返れば戦う姿勢を整えた期間だった。次週のリーグ3連戦では、その糧を活かした強者の戦いぶり、恐れず突き進むゲームを見せてほしいものだ。
以上
2013.04.28 Reported by 今井雄一朗
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