奇跡への序章は書き上げた。勝てなければＡＣＬ敗退が決まっていた広州恒大との一戦を３−２で制し、最終戦に望みをつないだ。選手たちは勝利以外許されないという重圧がかかるなか、しっかりと結果を残してみせた。

意外にも、広州恒大は開幕戦とは戦い方を変えてきた。開幕戦では浦和のフォーメーションと枚数を合わせる陣形を組み、引いて守って前の外国籍選手３人でカウンターという戦術で臨んだ広州恒大だったが、今回は４−２−３−１のフォーメーションを敷き、浦和の５トップに対して人数を合わせる守備もしなかった。
そして主導権を相手に渡してカウンターを狙うのではなく、パスをつないで攻撃を組み立てようとしていた。２点差以内の負けならＯＫという何のプレッシャーもない状況だったからなのか、今回の広州恒大は“浦和シフト”を取らず、極めてオーソドックスな戦い方を選択してきた。普段通りのプレーで勝てると踏んだのかもしれないが、これは浦和にとって極めて好都合だった。

勝利が必須の浦和には、殴り合いの展開は望むところだった。しかも、中途半端なレベルのモダンなサッカーをしようとする４バックのチームは、今の浦和にとって最も料理しやすい相手。外国籍選手３人が最低限の守備しかしないのに加え、チームが全体的に前がかりになってくれるので攻守が切り替わった際にスペースがあり、ＤＦ４人に対して５枚で数的優位を作るというＪリーグでもお馴染みの得意の攻撃も繰り出しやすくなった。今回の広州恒大の戦い方は浦和にとって非常にありがたいものだった。「正直、今回のやり方のほうが自分たちのサッカーができるという印象があった。パスもうまく回せた」と槙野智章も振り返っている。

浦和はオープンな展開になったゲームで主導権を握ると、２３分にはマルシオ・リシャルデスがペナルティエリア内で倒されてＰＫを獲得。いい流れのなかで先制点のチャンスを得るという理想的なパターンだったが、阿部勇樹がＰＫを外すと雰囲気が変わってしまった。チーム全体にＰＫ失敗を引きずるような重さが見えはじめ、ＰＫを決められなかった阿部本人も「外した後、特に前半はうまくコントロールできずにミスも多くて申し訳なかった」と話したようにプレーの精彩を欠いた。チームメイト数人が指摘したように精神的な動揺が大きいのが見て取れた。

浦和は悪い流れのなかで３６分、ミスから失点という最悪の展開に。ボールを持ち運ぼうとした森脇良太がムリキに奪われ、すぐさまＤＦラインの裏にスルーパスを出されると、飛び出して対処しようとしたＧＫ加藤順大がバリオスにあっさりとかわされ、無人のゴールに流し込まれた。
絶対に勝たないといけない試合でミスから被弾。浦和は一番やってはいけない形でリードを奪われたが、それでも内容で相手を凌駕していたことが精神的な支えとなり、リズムを失うことはなかった。「ＰＫで流れが変わったけど、あんまり今日は負けるという感じがしなかった」とは柏木陽介の弁だ。

結局、前半に浦和の攻撃が実を結ぶことはなかったものの、後半に入るとすぐに結果につながった。５２分、槙野のクロスのこぼれ球を平川忠亮がシュート性のキックで叩くと、ゴール前に飛び込んだ興梠慎三が押し込み同点に追いついた。さらに63分には、阿部が槙野とのワンツーから勝ち越し点を奪うと、その３分後には興梠が倒されて得たＰＫをマルシオ・リシャルデスが決め、リードを２点に広げた。

すっかり雲行きが怪しくなった広州恒大は72分、マルチェロ・リッピ監督がスローインの判定に怒ってペットボトルを蹴ったことで退席処分に。この試合で４−１の勝利を収めれば最終節で広州恒大を上回る可能性があった浦和にとって、ゲームプランを考える敵将の退場は確実に追い風だった。
もしかすると４ゴールの勝利もあり得る、そういった期待感を抱かせる試合展開になった。しかし、８７分に一度はオフサイドと判定されたように見えた（ＧＫがゴールキックのためにボールを置いた）ムリキのゴールが認められ、３−２の１点差に。これで広州恒大は負けてもグループリーグ突破が決定的となり、浦和は最良のシナリオを描くことは叶わなかった。

浦和はノルマの勝点３をゲットし、条件は厳しいながらも最終戦（５／１・vsムアントン）まで予選突破の可能性を残した。一方、広州恒大も許容範囲内の１点差黒星でアウェイ戦を乗り切り、決勝トーナメント進出を決めた。

以上

2013.04.25 Reported by 神谷正明