勝負に対する詰めの甘さが黒星を招いたと言っていいだろう。「今日は前半に試合を決めないといけなかった」とペトロヴィッチ監督が肩を落としたように、一方的に試合を支配していた前半の45分間に追加点を奪えなかったことが後に大きく響く結果となったが、所々で集中を切ってしまったことも敗因となった。
前半は浦和が全北現代を圧倒した。いつも通りのサッカーで相手の守備を揺さぶり、開始6分には槙野智章のパワフルな持ち運びから原口元気が先制弾。浦和にとってはこれ以上ない最高の滑り出しとなった。
全北現代は何らかの浦和対策を講じていたようだが、ピッチ上の現象としては何の効果も見られなかった。ファビオ・レフンディス監督は「この試合の前に浦和のビデオをかなり分析し戦術を把握し2、3つの準備をした。ただ浦和は予想をしていたのと違う戦術で来た」と話していたが、浦和の戦い方は普段と何も変わっていない。メンバーが変わっただけだ。全北現代の前半の戦い方を見る限り、どうやって浦和を抑えようとしているのかはっきりしなかった。
全北現代は前の数人が中途半端にプレスをかけにいっては浦和の守備陣に軽くかわされ、中盤では浦和の2シャドーを誰が見るのかといったところもあいまいだった。その結果として浦和は自由にボールを回すことができ、マークの緩いシャドー、特に原口元気が生き生きとプレーすることで序盤からチャンスを量産した。
全北現代は攻撃の局面でも見るべきところはなかった。韓国らしいフィジカルの強さを押し出すパワフルなスタイルではなく、後方からボールをつないで攻撃を組み立てようとする素振りは見られたが、技術と戦術が伴っていなかったのでDFラインで回すだけ。最後は1トップのケビンに蹴り込むか、サイドからシンプルに縦に運んで単純にクロスを上げるかしかなかったが、ケビンには那須大亮がしっかりとついていたので、あっさりと潰されて浦和にセカンドボールを拾われていた。中途半端にモダンなサッカーを試みたことは浦和を助ける形となっていた。
ただ、前半の全北現代にまったく歯ごたえがなかったことは、浦和の選手たちから緊張感を奪うことにもつながっていた。攻守において相手から脅威を感じることがなかった浦和はどこか余裕を持ちすぎていた。「3、4点決められるチャンスがあった」(柏木陽介)のは確かだが、現実にはまだ1点しか取っていなかった。だが、1−0という1つの事故で状況が変わってしまうスコアにもかかわらず、“3−0”のような余裕を感じさせるプレーが散見された。ボールをゆっくり持ったGK加藤順大がキックをケビンに当ててあわや失点、というシーンなどはその最たる例と言えるだろう。
そのツケが後半に回ってきた。52分にセットプレーのこぼれ球からイ・スンギに決めれられた同点ゴールは「狙って打ったというようなシュートではなかった」とペトロヴィッチ監督が話したように、ラッキーパンチが当ってしまったような側面もあったが、2失点目は集中力の欠如が大きな要因になった。
この場面もセットプレーからの失点となったが、キッカーのエニーニョがFKを蹴る前に、ゴールを決めることになるイ・ドングッにあっさりと前に入られ、後追いするような形になってしまった。アクションを起こす前から嫌らしいポジショニングをしていた選手、しかも最も警戒すべき大型のエースストライカーに簡単にマークを外されたというのは気が緩んでいたと言われても仕方がないだろう。
そもそも浦和は相手にFKを与えすぎていた。全北現代がほぼ何もできていなかった前半でも10本も与えていた。事故が起きるとしたら自分たちのミスかセットプレーしかないような展開のなかで、不用意に相手にチャンスを献上していた。
逆転を許したことで浦和はリズムを失った。「自分たちのやらないといけないサッカーを忘れて、1人1人が自己中なプレーに走ってしまった」とは柏木の弁。焦りから攻撃がチグハグになり、パスの精度も落ちてボールロストの回数も増えていった。時間の経過とともに運動量が減少したことでさらに歯車が狂い、前半のようなコンビネーションは見る影もなくなった。
全北現代が後半から戦い方を変えてきたのもボディーブローのように効いた。前線に重量級FW2枚を置いて強引に起点を作り、守備でも人を掴まえて厳しく当たりにいく韓国らしいパワフルなスタイルで浦和のビルドアップを阻みにいったのが功を奏した。レフンディス監督も「勝つために激しいプレッシャーをかけるなかで、私たちの特徴を活かすような試合ができた」と後半の戦い方には胸を張った。
「自分たちで壊したような試合というイメージがある」
試合後に平川忠亮が語ったこの言葉が全てだろう。ただ、決勝トーナメント進出を目指す上で痛い黒星となったのは確かだが、これで道が閉ざされたわけではない。過去はどうやっても覆すことはできないが、借りを返すことはできる。次のアウェイゲームで雪辱を果たし、道を切り拓いていく。
以上
2013.04.04 Reported by 神谷正明
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