何やら不思議な試合だった。本来ならＰＫを４本も取られれば後味は悪くなり、試合にも敗れる可能性が高い。ところが試合はアウェイ韓国の地ながら、６本のファインゴールが飛び出した華やかな“春の柏祭り”と化し、AFCチャンピオンズリーグでは開幕から破竹の３連勝を飾ったのである。

序盤は淡々としていた。柏はうまくサイドを突きながら攻め込み、若干流れを引き寄せた１６分という時間帯に、カウンターからレアンドロ ドミンゲスの相手のディフェンスラインの背後を狙った浮き球パスが飛び出し、工藤壮人がＧＫより一瞬早くボールにコンタクト、右に流れたところを田中順也が詰め、柏が先制した。
しかし水原もボランチを起点にしながら、右のSEO JUNG-JIN、HONG SOON-AK、左のCHOI JAE-SOO、HONG CHUL、突破力のある両翼を使いつつ、高さを持つ前線の鄭大世とDZENAN RADONCICにクロスボールを入れて柏を押し込み始めた。水原はポゼッションもパワープレーも両方できるチームである。ただ、この試合では比較的ロングボールを多めに攻撃を仕掛けてくるというスカウティングにより、増嶋竜也を左サイドバックに回し、鈴木大輔をセンターバックに置き、近藤直也を含めた「強さのあるディフェンスライン」（ネルシーニョ監督）を敷いて水原のパワープレーに対抗した。

比較的静かだった前半とは打って変わって、後半になると試合は大きく動く。立ち上がりに水原にＰＫが与えられたが、DZENAN RADONCICのキックは菅野孝憲がストップ。ここで１−１にされていた場合、その後の展開が変わっていた可能性もあっただけに、試合の行方を大きく左右するセーブとなった。しかも水原のＰＫ失敗から４分後、右コーナーキックのこぼれ球から栗澤僚一の左足ミドルシュートが見事な弧を描き、ゴールへ吸い込まれる。公式戦では２００８年第３０節の横浜ＦＭ戦以来となる栗澤のゴールにチームメイトたちも狂喜乱舞。直前のＰＫ失敗で意気消沈した水原の雰囲気に、さらなる追い打ちをかける威力を持った一発だった。

先ほども述べたように、水原はハイボールによる攻撃が多かった。近藤、鈴木、増嶋、空中戦に強い選手を並べただけでなく、昨シーズンのACLラウンド１６で蔚山のハイボール攻撃に敗れた反省を踏まえ、「蹴られた時の反応を速くしなければというのは、去年蔚山にやられて痛い目に遭いましたし、そこは全員が集中していた」（大谷秀和）というように、センターバックが競った後のこぼれ球の対処も、選手それぞれが素早い対応を見せた。苦しい状況ではリスクを負わずに簡単にクリアして逃れ、余裕がある時にはレアンドロ ドミンゲス、狩野健太につなぎ、そこから効率的なカウンターへと持ち込む。５２分にはCHOI JAE-SOOに決められ１点差にされたものの、前がかりに攻めてくる水原のバランスの悪さを突いて柏のカウンターが唸る。５５分、田中からパスを受けた工藤が巧みな反転から豪快なシュートで３−１とする。

このようにこの試合では失点をする、あるいは相手にＰＫが与えられるなど、水原にペースが傾きそうな時間帯の直後に、ゴールでその悪い流れをすぐさま断ち切れている。６５分には水原に２本目のＰＫが与えられたが、その２分後に田中がゴールを叩き出した。７３分、水原は３本目のＰＫをようやく決めることができたが、２分後の７５分には再び栗澤のミドルシュートで点差を広げた。そのため悪いリズムに陥ることなく、逆に水原からすれば、反撃ムードになった直後に水を差された格好となり、意気消沈して勢いに乗れることができない状態となった。
最後は、おそらくこの試合に出たかっただろう、昨年まで釜山でプレーしていたキム チャンスが負傷の藤田優人に代わってピッチに上がると、本来の彼らしいダイナミックなオーバーラップと高精度のクロスで、アディショナルタイムに工藤のヘッドをお膳立てした。大谷が「全員がやるべきことを全うした９０分」と振り返ったように、異国の地で６ゴールを荒稼ぎするという大勝を飾った。

これで来週のホーム日立台での水原戦では早くもグループリーグ突破の可能性が出てきた。４本のＰＫが相手に与えられるなど、難しい状況の試合だったにもかかわらず、自分たちの手で流れを引き寄せることができたのは、昨年のアジアの経験を選手たちが存分に生きしているからだろう。しかし、いつまでもこの“柏祭り”の余韻に浸っているわけにはいかない。中２日で、週末にはＪリーグで名古屋との対戦が控えているのだ。ただ、日韓戦という舞台でこれだけの試合をやってのけた選手たちである、おそらく彼らの頭の中はすでに週末のリーグ戦へと切り替わっているはずだ。

以上

2013.04.04 Reported by 鈴木潤