開幕だ。中後雅喜は言う。「いま(開幕2日前)はまだ特別に意識することはないですけど、前日練習を終えて、先にJ1が始まるのを観て、当日になってみんなで集まってバスに乗って会場に向かうって進んでいくうちに、気持ちが一気に昂るかもしれないですね」。きっと、同じ思いの選手は少なくないだろう。そんな中、“開幕”に特別な思いを抱いているのが常盤聡である。今年でプロ4年目となるが、未だ開幕戦スターティングメンバー入りを果たしたことがないのだという。「悔しくスタンドから観ていたこともありました。やっぱり開幕戦の雰囲気は違ったものがある。あの、開幕のホイッスルが鳴る緊張感をピッチの中で感じたいという思いは、年々増しています」。新天地で念願叶うか?今季は17人もの選手が新加入しているだけに、他のメンバー構成と合わせ、まず2013年チーム初戦先発の顔ぶれに注目だ。
残念なのが、三浦泰年監督の2試合ベンチ入り停止である。今年新しく就任したばかりのため、その初戦をチームとともにピッチの中で迎えられないのは無念だろう。しかし、「プレーするのは選手。逆に、良い刺激になってくれればいいと思う」と、指揮官はプラス思考を喚起。選手たちも「監督がいないから自分たちでは何もできないなんて、プロとして情けない。こういう時こそまとまって、自分たちで考えて、しっかり結果が出せるのが良いチーム。そうなるためにも、みんなで補いながらやっていきたい」(高原直泰)、「『ヤッさん(=三浦監督)がいなくてもできるんだぞ!』って言いたい」(佐藤優也)など、動じる様子はほとんどない。さらに、中後は「逆に、スタンドから観るということは、視点が変わってもっと厳しい目でチームを見るのかもしれない。結果以上に内容の質も問われると思う」と、より気持ちを引き締めていた。
対戦相手が古巣ということで、メラメラと闘争心を燃やしているのが、福岡から新加入した鈴木惇だ。「どうしてもモチベーションが高まります。やっぱり一番は楽しみというのが強いですけど、僕は成長を求めて東京Vに来たので、そこで負けたら恥ずかしいという気持ちも強いです。だから、内容も大事ですけど、他の選手以上にとにかく『絶対負けたくない』と思っています」初めての“古巣対決”。自ずと昂ぶっていく思いを好パフォーマンスにつなげ、「早く東京Vのサポーターの方に認めてもらいたいです」。
「もちろん、(勝って)良いスタートを切りたくないと思う監督は一人もいないし、自分も同じ。でも、結果ではなくて、良いサッカーができるかどうかが大事。それに対して、今まで選手は意欲的に、しっかりと集中して取り組んでくれて、この開幕を迎えられたとは思っている」監督として、やれるべきことはやった。あとは、選手たちが「良い結果が出せるようにみんなでやっていくだけです」(高原)。まだまだ歩みだしたばかりのチーム。練習試合やプレシーズンマッチなど、J1チームとの対戦でなかなか結果が出ないなど、開幕の現時点で完璧というわけにはいかない。だが、「どんなチームでも必ず我慢の時はくるもの。逆に、最初からうまくいってばかりのチームの方が“脆い”と思う。いま、苦しんでいるかもしれないけど着実に進んではいるので、今やっている“ボールを大事にする”サッカーを、諦めずに続けていくことが大事だと思います」鈴木は熱く語った。
対する福岡も、マリヤン プシュニク監督を招聘し、新たなチーム作りを進めている。その指導力には、プロ17年目のシーズンを迎える古賀正紘ですらも「新しい発見ばかり」と、感化を受けるほど。なかでも最も意識が高まったのが、「ゴールを目指すことへの執着。ボールを持ったら、とにかく全員が素早くゴールを目指して動き出す」ことだったと古賀は語る。「最高の理想は、攻撃も守備も、つまり90分間にわたって相手陣内で試合をすること」だと、主将が話すように、プシュニク監督が掲げる『高い位置からプレスをかけて、奪ったら素早くゴール目指して前へ向かう』サッカーが徹底的に植え付けられれば、そうした理想的な展開に自ずとなっていくということではないだろうか。そこに対して、東京Vも『セカンドボールへのハードワークで絶対に負けない』、『ロングボールを蹴らせない』など、基本的対策を徹底させる構えである。
また、キーパーソンとして、鈴木(東京V)は城後寿の名を挙げる。「とにかく上手い選手です。自由にやらせないようにしたい」6年間福岡で一緒にプレーした旧友との対戦だけに、城後にとっても楽しみに違いない。さらに、坂田大輔、石津大介、さらにルーキー金森健志らFW陣も好調のようだ。18位と低迷した昨季と同じ道を歩むわけにはいかない。心機一転、巻き返しを狙う新生プシュニク福岡は非常に注目だ。
以上
2013.03.02 Reported by 上岡真里江
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