12月23日、天皇杯、準々決勝、名古屋vs横浜FM、13：00キックオフ。違うのは、日付が24日だったのが、1日前になっただけである。昨年度の天皇杯準々決勝でも名古屋と横浜FMは瑞穂陸での準々決勝で相対し、結果は横浜FMがPK戦の末に勝利した。1年越しの再戦が同じ結果になるか、名古屋のリベンジになるか、この巡り合わせだけでも面白い一戦が、キックオフの時を待っている。

昨年の対戦を振り返れば、名古屋は苦境の最中で迎えた一戦だった。クラブワールドカップに出場した柏との4回戦から中2日、しかもケネディや田中マルクス闘莉王など主力4名を欠く苦しい布陣。疲労の色濃いメンバーは何とかスコアレスで持ちこたえたが、最後はPK戦で苦杯をなめた。今季もケネディ不在は同じだが、田中マルクス闘莉王も阿部翔平も田中隼磨もいる。さらに永井謙佑と田口泰士という成長株もいる。インターバルも中7日。名古屋のチーム状態は前回とは大違い、何より7位に終わったリーグ戦の悔しさという燃料は昨季以上だ。

悔しさを燃料にする名古屋とは違い、ポジティブなモチベーションで臨んでくるのが横浜FMだ。狙うは2005年以来のアジアの舞台である。リーグ戦を4位で終えたが、リーグ上位3チームはすでに大会から姿を消しているため、天皇杯優勝だけがAFCチャンピオンズリーグ出場権獲得の条件となる。4回戦ではリーグ3位の浦和に2−0の完勝を収め、勢いにも乗っている。その試合では来季の契約を更新しないことが決定している狩野健太が得点を決めており、チームの士気を高める要素は揃ってきている。

試合の行方を占うに、まず参考にしたいのが10月27日に行われたリーグ30節での対戦だ。両者譲らぬ展開の中、87分に名古屋の玉田圭司がワンチャンスをものにし先制するも、ラストワンプレーの直接FKを横浜FMの中村俊輔が決め、土壇場で引き分けた。この試合を膠着させたのは、両チーム守備陣の意地だった。急造FWとしては余りある活躍ぶりでリーグを席巻していた闘莉王を、中澤佑二と栗原勇蔵という代表クラスのCBコンビが完封。一方、名古屋は500試合出場を間近に控えていた守護神・楢崎正剛がビッグセーブを連発し横浜FM攻撃陣の前に立ちはだかった。注目すべきは闘莉王と中澤、栗原のマッチアップだ。1トップのポストプレーを軸とした攻撃の組み立てをしたい名古屋にとって、現在唯一のポストプレーヤーである闘莉王を抑え込めるセンターバックはまさに天敵。それは10月の対戦が何よりの証明であり、その教訓をどのような形で生かしてくるかは大きな注目点である。

そこで密かに期待されるのが、4回戦の熊本戦の後半で見せた形だ。前半は闘莉王を1トップに置いた4−3−3で戦っていた名古屋は、3点目を機に選手交代による布陣変更を行った。闘莉王をDFラインに戻し3バックとし、前線を玉田圭司、永井謙佑、金崎夢生の3トップとする3−4−3である。この時は選手の都合上、藤本淳吾が不慣れなウイングバックを務めるなど選手選考には改善の余地が残るが、闘莉王の正確なビルドアップと前線3枚の流動的かつスピーディーなパスサッカーは実に魅力的だった。高さでは名古屋に勝るとも劣らない横浜FMのDFラインだが、この“速く、上手い”3トップへの対応には手こずるはず。守備の安定という面においても闘莉王がゴール前にいる効果は大きく、選手たちの手応えも上々だった。従来のやり方を通すか、新たな可能性に賭けるか。ストイコビッチ監督の判断は見ものとなる。

しかしながら今季のリーグ戦最少失点を誇る横浜FMのディフェンスは強固そのもの。絶対エース・中村俊輔も豊田スタジアムで見せた伝家の宝刀、直接FKを見る限りは全く衰えを見せていない。この準々決勝には負傷していたマルキーニョスとドゥトラも戻ってくるという情報もあり、ラインアップも充実してきた。狩野、兵藤慎剛、齋藤学と2列目でチャンスメークを担う面々も多士済々。堅い守備と伸び伸びとしたオフェンスという絶妙のバランスは、ベスト8に残ったチーム中でも屈指で、いまだ最適のバランスを見いだせない名古屋に比べ、チームの完成度では一枚上手だ。

こうして比較してみれば、やや優位は横浜FMか。名古屋は闘莉王の使い方で大きく試合展開が変わることになる。良くも悪くも、名古屋の背番号4のポジションが、この一戦の趨勢を左右することになりそうだ。

以上

2012.12.22 Reported by 今井雄一朗