９月以降公式戦１４戦無敗と記録を継続中の大宮が、リーグ戦を６位で終えた柏を熊谷スポーツ文化公園陸上競技場に迎える。両者は今季リーグ戦では２−４（NACK）、４−１（柏）の１勝１敗だが、前者は大宮がベルデニック監督就任初戦だったことと、後者がベルデニック戦術が浸透してからの対戦であることを考えれば、より良いイメージを持って臨めるのは大宮だろう。逆に言えば、柏は前回の雪辱を期して、単なる天皇杯の１試合以上のモチベーションを持って臨んでくるはずだ。

４回戦の大宮は川崎Fを相手に前半で０−３とリードされ、後半に４点を返して大逆転勝利を収めた。ただ、この勝利に浮かれている選手は一人もいない。４点を奪った自信よりも、「先に３点を取られた反省のほうが大きい」と渡邉大剛は言う。「諦めなかったことは大事だし、勢いのつく勝利とも言えるけど、ああいうゲームはしたくない。ブロックをコンパクトにすることとチャレンジ＆カバー、横へのスライドをしっかり修正したい」と、リーグ終盤１１戦で４失点の堅守を取り戻すことが大宮の勝利への条件となる。
その守備面での気がかりはベルデニック体制下でレギュラーの座をつかみ、堅守を支えたボランチ金澤慎が累積警告で出場停止であることだ。今季は不遇のシーズンを過ごした上田康太がその席を埋めることになるが、攻撃で長所を発揮する選手であり、単純な個人の守備力の面では間違いなく落ちる。「確かに慎さんみたいな球際の強さはないかもしれないけど、しっかり首を振って、スペースを消して守りたい」と上田は言うが、リーグ終盤に何度も見せた、荒波を戸板一枚で支えてしのぐような状況になると、そのマイナス面が無視できなくなるだろう。
ただ幸い、青木拓矢とのダブルボランチは、昨年ずっと一緒に組んでいたベースがある。チーム全体で前線からハードワークし、組織をコンパクトに保って、なおかつ青木が「良い距離感を保って、康太君の良いところを引き出す」ことができるか否か。攻撃の局面で自由を得れば、途中出場した川崎F戦で見せたように、アイディアあふれる長短の自在なパスで試合をコントロールする能力を上田は持っている。いずれにしても、押し込まれる展開では上田の長所まで消えてしまう。大宮は、好むと好まざるとにかかわらず、通常よりも攻撃的な戦い方に活路を見出さざるを得ない。

一方、柏は４回戦ではJFL１０位の横河武蔵野を相手に１−０と苦戦した。５バックの布陣で引いてカウンターをねらってきた下位カテゴリーのハードワークに苦しみ、そこをこじあけるべきレアンドロ ドミンゲスとジョルジ ワグネルの２枚看板を欠いたことがその要因だ。柏の選手層は決して厚くはなく、現に前回対戦時は左サイドバックの橋本和を欠いたことでワグネルの怖さが半減したし、センターバックの近藤直也の不在も４失点に大きく影響した。今回は橋本とワグネルの左サイドコンビは健在だが、ドミンゲスは出場停止が続き、近藤の出場が微妙との情報もある。
ベルデニック監督は「柏は、前回とは違う戦い方をしてきて、我々が４得点したような形にはならないだろう。おそらく川崎F戦の前半を見て、少し引いたところからカウンターを仕掛けてくるのではないか」と予測する。確かに大宮はあの前半で、先制され、ボールを持たされて攻める形となり、カウンターから次々に失点した。ネルシーニョ監督としてもそこは見ているだろうし、さらに大宮の攻撃の核である東慶悟に対してはマンマークで自由を与えない、濃厚に守備的な戦い方を選択してくる可能性は大きい。

いつもより攻撃的な大宮と、いつもより守備的な柏。ともに守備からリズムを作るチームだけに、序盤から動く展開にもハイスコアなゲームにもならないだろうが、有利不利で言えば、得意な形をそれほど崩さずにすむ柏になるかもしれない。それでも大宮がこの戦いを制することになれば、川崎F戦で得た自信は確信に変わり、初タイトルさえ現実味を帯びるだろう。前回対戦時、大宮はその時点で６戦負けなしだったとはいえ、複数得点したのは最下位の札幌戦のみで、得点力不足から引き分けも多かった。それが柏戦で４得点したことで攻撃に自信を付け、終盤に勝ち星を重ねて残留を引き寄せた。あの試合は間違いなく、大宮にとって一つのマイルストーンだった。「これまでの集大成となるベストゲームをするのが、ここじゃないかと思う」と、北野貴之は予言する。堅守速攻だけではない大宮へ――。その先には、国立が待っている。

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2012.12.22 Reported by 芥川和久