予想通り、武蔵野は2回戦のF東京戦と同じく5バックのシステムを用いた。本来はボランチの金守貴紀を最終ラインの中央に置き、その両脇を小山大樹、平岩宗が固め、サイドでは林俊介と遠藤真仁がスペースを埋める。しかもその5枚のディフェンスラインの前には3人のMFが壁を作っており、実に8人の選手がバイタルエリアのスペースを埋めるといった格好だ。
ただ、前半の柏は比較的落ち着いた試合運びができていた。大谷秀和が普段よりもサイドチェンジを多用し、直接左右のサイドバックまで飛ばすことで、武蔵野の陣形を揺さぶりにかかる。中盤右サイドに入った工藤壮人の「中に入るところ、開くところの動きを付けて、相手の陣形を開かせたかった」とメリハリの付けた動きも効果的だった。武蔵野のカウンターに対しても、近藤直也がタイトなマークで前線の冨岡大吾に収めさせず、その背後を増嶋竜也がカバーしていたため、これといったピンチはなく、クリア気味のロングボールを前線に送る武蔵野に対し、柏はセカンドボールを拾いながらパスをつなぎ、幅を使った攻撃で攻め込んだ。
24分の先制場面も、右サイドバック藤田優人からアーリークロスが入り、そのこぼれ球をサイドから中央へ飛び込んだ工藤がフォロー。混戦内でのルーズボールを田中順也が左足を振り抜いて決めた。
できれば早い時間帯に1点が欲しかった柏と、「前半は失点0を掲げて、ここまで準備をしてきた」(依田博樹監督)という武蔵野。ここまでは柏の狙い通りの展開だ。ところが、32分の右コーナーキックではフリーの近藤直也の放ったヘッドはバーを越え、41分のセットプレーでもマーカーが外れたにもかかわらず、橋本和のヘッドはポスト右に逸れる。49分には工藤が澤昌克とのワンツーでディフェンスラインの裏へ抜け出すも、工藤の右足シュートはポスト左に転々と外れた。その2分後、左サイドを深くえぐった橋本の折り返しを澤が大きくふかすなど、柏はことごとくチャンスを逸し続ける。
ここで2点目を奪えなかったことが心理面に影響を及ぼす。「早く追加点を取って楽になりたい」。ピッチ上からは、そんな言葉が聞こえてくるかのように柏からは焦りの色が見え始めたのだ。武蔵野が5バックと3ボランチで網を張るため、田中、工藤、澤はボールを持っても即座に2、3人に囲まれてしまうというのはあったのだが、それにしても淡白な攻撃が目立ち、サイドバックもリスクを冒して攻め込むが、切り替えの部分で完全に武蔵野が上回ったことで、サイドバックが上がった裏のスペースは武蔵野の狙いどころとなり、鋭いカウンターで背後を突かれていく。
柏の選手たちの多くは「チャンスで決め切れなかった」と、この苦戦の原因を述べている。もちろん、それに異論を挟むつもりはないが、「決め切れなかった」こと以前に、大谷と安英学の言及にこそ、この苦戦の根本的な理由が隠されているように思う。切り替え、球際の競り合いといったハードワークの意識を持ち続けることはカテゴリーとは一切無縁。「その意識を持ち続けることは相手の頑張りとは無関係のところ。普段の意識を90分続けないといけない」(大谷)。「途中から足が止まり、寄せやこぼれ球への反応は相手が上回っていた。そこを修正しないといけない」(安英学)。
1点取れば追い付けるという気持ちに加え、足の止まった相手に対して運動量では圧倒している。したがって、終盤に見せた武蔵野の猛攻は必然の結果だろう。82分、菅野孝憲のファインセーブで食い止めた武蔵野の決定機も、そもそもの原因はサイドのオープンスペースへ上がっていった上田陵弥に対して、足の止まった柏は誰も付くことなく、フリーにさせてしまったために生まれた場面だ。
「1試合を通じて選手はファイトした」と胸を張った依田監督の言葉通り、90分間を、おそらくは延長戦まで含めた120分間を戦い抜くつもりでファイトし、ハードワークの意識を貫いた武蔵野には敬意を払うべきだろう。下部ディビジョンのチームに大苦戦を強いられるということは、天皇杯では往々にしてあり得るが、柏の選手たちは優勝を目指すのならば、1−0の辛勝も「勝ったからよし」ではなく、意識の部分で武蔵野に上回られていたことを認め、その上で改善に努め、準々決勝以降に生かさなければならない。
以上
2012.12.16 Reported by 鈴木潤
J’s GOALニュース
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