名古屋が5得点を挙げ、J1の貫録を見せた試合。しかし熊本も2点を返し、善戦した。スコアから想像される内容はこんなものだろうが、真実は違う。確かに両チームの間に確かな実力差はあったが、全体として見れば名古屋が苦戦したというほうが正しかった。
名古屋にとっては2週間ぶり、熊本に至っては1か月ぶりの実戦となったゲームは、まずは下馬評通りに名古屋が支配する展開となった。田中マルクス闘莉王を1トップに置く4−3−3を選択したストイコビッチ監督は、あくまで全力で、攻撃的な布陣で熊本を迎え撃った。逆三角形の中盤はアンカーに田口泰士、インサイドハーフに藤本淳吾と小川佳純を並べる攻撃力重視の面々。左右のウイングはスピードと突破力に優れる金崎夢生と永井謙佑にスタメンを任せた。ベンチに玉田圭司とダニルソンが控える豪華な陣容は、J1最終節まで上位を争ったチームの戦力を示している。個人能力でも勝る名古屋は、熊本の高木琢也監督が「比較すれば走力とプレースピードに差を感じた」と語ったようにキックオフから厳しいチェックで熊本を圧倒。敵陣でボールを奪ってチャンスを作ることもしばしばで、いきなり熊本は劣勢に立たされた。
しかしながら前半は、その後一進一退の攻防へと発展していく。15分、名古屋がCKを跳ね返されたセカンドボールを簡単につなぎ、小川の突破から藤本へパス。クロスをファーサイドで待っていた闘莉王がきっちり頭で押し込んで先制した。これで一気に名古屋が主導権を握るかと思いきや、23分に武富孝介が右サイドを抜け出し最後は齊藤和樹が流し込んで試合を振り出しに戻す。43分には右サイドからのアーリークロスを闘莉王が胸トラップで落としたボールを金崎が叩き込んで再びリードしたが、2分後に齊藤が目の覚めるようなドリブルでDF3人の間をすり抜けまたも同点に追いついた。
前半は名古屋のプレスに圧された熊本のイージーミスが顕著だったが、こと得点後においては名古屋もまた集中力の欠如が目立ち、波に乗り切れなかった。前半の両チームの出来は、サポーターたちの反応がよく表している。ホイッスルが聞こえた瞬間、2度のビハインドを追いついた熊本のサポーターはまるで勝利したかのような歓声を上げた。逆に名古屋サポーターは引き上げる選手たちに、ブーイングを浴びせかけたのだ。熊本の倍のシュート数と、それ以上の得点機を得ながら同点で折り返したとあれば、それも当然の反応だった。
迎えた後半、最初の45分では4得点が生まれたオープンな打ち合いは、一転して名古屋の独壇場と化した。またも高木監督の言葉を借りれば、「点の取り合いでは分が悪かった」のが原因だ。続けて高木監督が言ったように、リードされて追いつくためには大きな力が必要になる。格上相手に2度もそれをやってのけた熊本はそれだけで大したものなのだが、さすがにそれ以上は許容量を超えていたようだ。
後半開始から立て続けに2つの得点機を作られ、前半同様にその直後に決定機を作り返したまではよかった。だが20分に小川に勝ち越しゴールを奪われた以降はほぼ防戦一方となり、失点を重ねてしまった。
名古屋が優位を手にしたのは、3度目のリードだけが理由ではない。小川の得点後、すぐさまストイコビッチ監督は前半の反省からか守備へと意識を傾けた。阿部と田口の2名を玉田とダニルソンに代え、闘莉王を最終ラインに戻す3−4−3へと布陣を変更。闘莉王とダニルソンという守備の“お目付け役”を一気に増やし、熊本の反撃に対する備えを整えた。そして前線は玉田を軸としたパス中心の“地上戦”をメインとし、リスクマネジメントも兼ねたポゼッションサッカーで時間も有効に使い出したのだ。その効果はてきめんで、熊本の守備組織をかく乱するようなパス回しから79分に永井、85分に玉田が追加点を挙げ、最終スコアを5−2にまで伸ばした。高さに頼らない魅力的なサッカーを、名古屋は後半限定ではあるものの披露したことになる。
結果としてスコアは名古屋が圧勝したものとなったが、後半の出来からすればもっと点差を付けられた試合ではあった。これだけ得点できる相手ならば、守備でも完封してしかるべきだった。ゆえに試合内容の評価としては名古屋の苦戦とする方が妥当だろう。淡々と「目的は果たした」と振り返ったストイコビッチ監督の内心は、次戦への修正点であふれかえっていたに違いない。3年の任期を終えた高木監督が「サイドからのクロスの対応と、数的優位を作らせないということはできた」と手応えをつかんでいたのとは対照的だった。5得点した名古屋の選手たちにしても、表情はすぐれなかった。J1とJ2という立場の差を考えれば当然かもしれないが、それ以上に試合の進め方に不満が大きかったようだ。「次はハーフタイムにブーイングされないように」と小川は話したが、まさしくその通り。次戦の相手、横浜FMの同じことを繰り返せば、苦戦どころか敗北は必至である。
今季だけでなくひとつのサイクルが終わった熊本は、ここが新たなスタート地点となる。高木監督が育てた選手と組織力が、いかなる進化を遂げていくかは来季の楽しみとしておきたい。去りゆく指揮官は「天皇杯は年末にトレーニングができる、プレーを続けられる喜びがある」としたが、名古屋の選手たちにはリーグ戦の名誉挽回という意味合いも加わる。また横浜FMとは今季2分けと決着がついていない上に、昨季の天皇杯でPK戦の末敗れている因縁もある。その意味でモチベーションは十二分。後半に見せた、闘莉王に頼らない攻撃を展開できるかという楽しみもできた。次戦の会場はまたもホーム瑞穂陸だ。戦力外となった選手たちにとっての最後の舞台を、勝利で飾るためにも負けられない。名古屋の戦う理由はありすぎるほどある。1週間後の横浜FMとのリベンジマッチでは、この日以上にアグレッシブな姿に期待してよさそうだ。
以上
2012.12.16 Reported by 今井雄一朗
J’s GOALニュース
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