サッカーは攻守の狭間が曖昧なスポーツだ。攻守の切り替えは一瞬で行われ、相手を陣内に押し込み慌てさせているように見えるときでも、じつは攻撃の準備を進められていることもある。表から見たときと裏から見たときの風景がガラリと変わる。
細かいシャワーのような雨が降る県立カシマサッカースタジアムでの試合はキックオフからわずか15秒ほどで試合が動く。磐田のキックオフからパスを繋ぎ、右サイドから小林裕紀がクロスをあげると、鹿島のセンターバック岩政大樹がクリアミスを犯してしまう。
「僕として単にボールを上に上げることを考えていました。上に上げられさえすれば、その後なんとか対処できると思ったので」
だが、ボールは前にいた青木剛も触れていたため微妙に変化していた。思惑と違い、薄く当たったボールは背後に潜んでいた前田遼一の前にぽとりと落ちる。この絶好球を日本代表ストライカーが見逃すはずもなく、磐田が難なく先制点をあげるのだった。
しかし、鹿島もすぐさま反撃。セットプレーで何度かチャンスをつくると、5分、右CKから岩政が飛び込み、ミスを返上する同点弾で追い付いた。
早い時間で2つのゴールが生まれたわけだが、しばらく時計が進むと、試合の様相を象徴していたことがよりハッキリするようになった。ボールを支配するのは磐田。人数をかけた攻撃で相手を押し込みゴールへと迫る。ただ、一度ボールを奪うとすばやい攻撃で相手ゴールに襲いかかったのは鹿島。シュートで終わり、その後のCKで優位に立つ。どちらも攻めの糸口は掴んでおり、得点が生まれるのは時間の問題かと思われた。
すると15分、今度は左CKから鹿島が追加点を奪う。一度は、青木剛の競り合いは弾かれてしまったが、その浮き球を柴崎岳が競り合い再びペナルティボックス内に弾き返すと、ゴール前にいたドゥトラが胸トラップ。ゴールに背を向けたままオーバーヘッドシュートを放つと、ゴール左隅に見事に決まり、鹿島が逆転に成功した。
「1-1になったゴールもそうでしたけど、勝ち越すといまのうちは戦い方がハッキリする」と話し、この勝ち越しゴールが大きかったという岩政。相方の青木も「人数をかけてくる分、後ろは薄くなる。うまく奪って攻撃に繋げることを考えていました」と、人数をかけてくる相手を恐れるのではなく、そこをチャンスと捉えていた。
とはいえ、磐田もゴールまであと一歩だったことは間違いない。サイドバックが高い位置を取り、鹿島の2列目の遠藤康とジュニーニョにマークを見させると、中央のロドリゴ・ソウトと小林裕紀、そして松浦拓弥を見る鹿島の選手は小笠原満男と柴崎岳のみと、3対2の数的優位を作り出していた。
例えば、小林裕紀が高い位置に侵入すると、柴崎がピタリとマークについてくる。するとボールが中央に戻ってきたときロドリゴ・ソウトはフリー。これに小笠原がプレッシャーに行くと、今度は松浦がフリーになる。鹿島の守備はバラバラにされかかったが、磐田のシュートは前半5本のみ。最後のところはうまく防いでいた。
「むこうは時間とともに勢いが落ちてくることがわかっていました。2列目の選手が飛び出してくるところにセンターバックが釣り出されてしまわないように、青木や周りの選手と話してやっていた」(岩政)
鹿島とすれば、ドゥトラを守備に参加させれば、簡単に中央の数的不利は解消できていた。しかし、それを敢えて強要しなかったところに、鹿島の「戦い方」が鮮明に見えてくる。相手の攻撃を受け止めていた青木が説明する。
「相手はボランチもサイドバックも高い位置に来ていた。入って来る選手に対応するために、うちのボランチがずれて、センターバックもずれてしまうと、最後、中央は(岩政)大樹さんか僕が前田さんと1対1になってしまう。だから、なるべく外に引っ張り出させれないポジションをしっかり取ろうと思っていた。前から守備にいければいいけど、相手の攻撃をしのげればこちらの強みになる。ドゥトラの強みを考えるとその方が良いと思っていました」
後半に入ると66分にジュニーニョが3点目を奪う。
「点を決めていれば流れがこちらに来た」と磐田の松浦が悔しがる。確かに人数をかけて攻撃を仕掛けたときに、得点を奪えていれば展開は違ったものとなっていたはずだ。鹿島も意図的にドゥトラに守備をさせずに戦ったが、そこで失点していれば違う戦いになっていたことだろう。しかし、その意図が正しかったことを証明するのは結果でしかない。鹿島が狙いどおりの戦いで試合を進め、準々決勝進出を果たした。
以上
2012.12.16 Reported by 田中滋
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