試合前からアウェイ側ゴール裏は黄色に染まっていた。仙台から大挙して押し寄せてきたベガルタ仙台のサポーターがゴール裏1階席を埋める。それを受けて立つホーム側のサポーターも負けてはいない。両チームのサポーターによる歌声がスタジアムにこだまするすばらしい雰囲気のなか、試合は始まった。
「まず前を取ること、アタッキングサードに入り込むこと、サイドバックの裏をどんどん突くこと、というところで勢いを持って入る。それはまず立ち上がりから、我々は表現できたなと思う」
手倉森誠監督が手応えを感じたとおり、良い入り方をしたのは仙台だった。鹿島も決して悪くはなかったが、仙台は優勝争いのプレッシャーを感じさせることもなく、普段どおりにアグレッシブにボールに襲いかかる。そして、12分に菅井直樹のクロスに赤嶺真吾が飛び込みあっさり先制点を奪うのだった。
「1失点目が彼らが一番やりたい形での失点でした」
ジョルジーニョ監督は、菅井の攻撃参加を警戒するために増田誓志を当てていた。しかし、仙台はそれでも狙いどおりの先制点をあげたことで一気に波に乗る。22分にはウイルソンがこぼれ球を押し込み、早々に2点をリードする。
このゴールの直後、歓喜に湧くアウェイ側をのぞき、スタジアムには不穏な空気が漂い始める。かつて鹿島は、09年に名古屋、昨年はG大阪に1-4という大敗を喫したことがあったが、そのときと同じ空気の冷たさが感じられた。
だが、ジョルジーニョ監督は、その空気を鋭敏に感じ取っていた。
「情に流されて決断できないのはあってはいけないこと。様子を見てハーフタイムにと考えていたら、恐らく3点、4点、5点取られる状況だったと思います」
26分に増田に代えてジュニーニョ、33分に本田拓也に代えて本山雅志を投入。前半で二人の選手を交代するという勇気ある決断を見せ、サイドの顔ぶれをジュニーニョと興梠慎三という攻撃的なものに変えて、攻撃力で相手のサイドバックを封じにかかったのである。
ただ、この交代策で試合が劇的に変化したわけではなかった。確かに、30分に興梠がゴールをあげて1点差に迫ったものの、39分には赤嶺がゴールラインを割るかと思われた朴柱成のクロスを気迫でねじ込まれ、再び2点差に突き放されてしまった。ハーフタイムを迎えたとき、スタジアムにはブーイングがかき鳴らされたほどだ。しかし、選手構成は、もはや攻めきるしかない状態。前からボールを奪い、ゴールを狙いにいくしかない状況が鹿島を目覚めさせた。
後半開始早々の47分、ジュニーニョが左サイドを突破すると、飛び出た林卓人の鼻先に大迫勇也が飛び込み、再び1点差に迫ったのである。じつはハーフタイムに「戦術云々じゃない。戦わないと勝てない」という監督の檄を浴び、選手たちはプライドを賭けて臨んでいた。大迫、興梠、ジュニーニョのFW陣に加えてトップ下の本山が、さらにはボランチから柴崎岳が飛び出してくる厚みのある攻撃を繰り出してくる。
「(こちらが)点を取ることによって鹿島がさらにパワーアップしてくるだろうというのは、およそ見当もついていたし、それに対する対応策も自分たちで考えていたけれども、3-1で折り返したあとの、後半の1失点目、鹿島の2点目が少し早すぎた」
手倉森監督が悔しげにふり返る。鹿島はさらにかさにかかって攻め立てた。すると、粘り強くブロックを築いていた仙台DFの意表を突くように、柴崎がバイタルエリアの本山にちょんと浮き球パスを出すと、これを本山がワントラップしてさらに前方の興梠に浮かせたパスを送る。虚を突かれた仙台の選手たちの足が止まってしまった瞬間を見逃さず、ラインを抜け出した興梠が胸トラップから右足を振り抜き、同点に追い付くのだった。
攻める鹿島、粘る仙台。どちらも一歩も譲らず、タイムアップの瞬間、両チームの選手たちは膝に手を付き、ピッチに大の字になっていた。力の限りを尽くした激闘の果てだった。
しかし、同じ勝点1でも、首位広島が敗れたことで1差に迫ることに成功した仙台からは、この結果をポジティブに捉える様子が見られた。逆に、下位チームが軒並み勝利したことで差が詰まってしまった鹿島は、残り2節も難しい試合が残る結果となった。
以上
2012.11.18 Reported by 田中滋
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