「なぜ、このチームが降格圏内にいるのか？」。ここまでのG大阪の戦いぶりを見ていない清水関係者やサポーターは、誰もがそう思ったことだろう。強い雨だけでなく、強烈な風がピッチ上を渦巻き、11月としては信じられないほど荒れた天候の中、G大阪はきっちりとグラウンダーのパスをつないで自分たちのサッカーを展開。これほどの雨でも水がまったく浮いてこないアウスタの素晴らしいピッチにも助けられ、G大阪が3-1で清水に完勝。アウェイながら、地力や経験の差を存分に見せつけた。

この試合の展開を大きく左右したのは、まず試合前のコイントスだった。G大阪のキャプテン・明神智和は、コイントスに勝つと即答で風上のサイドを選択。ゴーッという音を立ててスタンドを揺らしながら吹き荒れる追い風の中、G大阪は風の影響を受けにくいグラウンダーのパスを主体にして組み立て、押し気味に試合を進める。逆に清水のほうは、G大阪の巧みな組み立ての前に前線からのプラスがはまらず、クリアボールや縦パスも風で押し戻されて味方につながらず、ズルズルと下がっていく展開になっていった。
清水の攻撃のほうは、サイドチェンジのパスやクロスボールが強風の影響をもろに受け、G大阪の遠藤保仁のような質の高いグラウンダーの縦パスがバイタルエリアにあまり入らない分、組み立てに苦労した。こうした悪条件の中だからこそ、遠藤をはじめとするG大阪の選手たちの正確で安定した技術が、より浮き彫りになったとも言える。さらに14分には、中盤でもっとも経験とリーダーシップのある杉山浩太が相手との激突で頭を打ち、試合序盤で高木俊幸と交代せざるをえなかったことも、苦しい流れに追い打ちをかけた。
そして24分、明神が左の裏に長いスルーパスを家長昭博に通し、倉田秋がドリブルで突破して角度のないところから右足シュートを突き刺して、G大阪が先制。清水守備陣が一瞬集中力を欠いたところを突いた見事な攻撃だった。清水としては、劣勢の中で「前半をゼロで抑えられたらチャンスがあると思っていた」（大前元紀）という思惑だったが、それどころか失点シーン以外にも多くのチャンスを作られ、清水のシュートはわずか1本。2点目を取られないことに精一杯の前半45分間となった。

しかし、後半開始早々の鋭い仕掛けから清水がCKを獲得し、1分の大前の右CKから岩下敬輔（清水から期限付き移籍中）のファウルを誘ってPKを獲得。これを大前が冷静にゴール右に決めて、試合を振り出しに戻すことに成功した（後半3分）。その再開直後にもカウンターから高木がシュートを放つなど、少し風は弱まったものの風上の清水が流れを取り戻すチャンスは十分にあった。
だが、同点から4分後には右スローインからの二川孝広のクロスに対して、レアンドロが巧みにDFの前に入ってヘディングシュートを決め、2-1。ワンチャンスを見事に生かす決定力によって、清水の勢いを削ぎ落とした。さらに後半19分には、レアンドロが裏に飛び出してボールをキープし、その落としを受けた二川のパスから倉田がフリーで飛び出して自身の2点目、チームとしては試合を決定づける3点目を奪い取った。
その後は、G大阪が冷静に試合をコントロール。雨も風も少し和らいだ中で清水が必死の反撃に出るが、落ち着き払って守備のブロックを作るG大阪の守りをなかなか攻め崩せない。一方、G大阪の松波監督は、イエローカードをもらっている岩下（後半24分）と家長（後半40分）を代えるという手堅い采配を見せ、ケガから復帰した中澤聡太のテストも試みながら試合を進める。そして、清水が決定機らしい決定機をほとんど作れないまま時計の針だけが進んで、3-1のままタイムアップの笛を迎えた。

これでG大阪は、残り2試合に向けて大きな自信となる試合内容と勝点3を得たが、残留争いのライバルが軒並み勝ったため、順位も苦しい立場も変わっていない。「まだ何も成し遂げていない。残留を成し遂げるまでは喜べないし、それまで集中して気を抜かずにやりたい」。代表戦の疲れが残る中で力強く戦い抜いた今野泰幸も、残留にかける強い決意を語った。
一方、残留争いをしているチームに手痛い2連敗を喫した清水は、これで順位を7位に落とし、ACL出場もかなり厳しくなってしまった。だが、残り2試合は、自分たちの意地と最後まであきらめない気持ちが問われる戦いとなる。選手たちの気持ちが切れかけてしまうことも危惧される状況だけに、サポーターの期待に応えたいという気持ちをエネルギーに変えて、残り2試合でしっかりと立て直すタフさを見せてほしい。

以上

2012.11.18 Reported by 前島芳雄