試合終了の笛の音は、ホームの松本にとって今季の終了を意味した。0-0のスコアレスドロー。しかしそれは、お互いが“勝利への執念”をぶつかり合わせた、手に汗握るスコアレスドローであった。

試合開始直後にリズムを掴んだのは、戦前からの想定内だったが何が何でも勝点3の欲しいアウェイの大分だった。開始2分、CKのチャンスでネットを揺らしたかに見えたがノーゴールの判定。守る松本にとっては命拾いした形だが、ゴールを狙う推進力は明らかに大分が優勢。それはもちろん『絶対勝利』『自動昇格圏の2位を』という執念が生んだもの以外の何物でもないだろう。その後もしばらくは左サイドのチェ　ジョンハンが積極的に攻撃に顔を出し、それぞれタイプの異なる2トップ2シャドーがゴール前に顔を出すなど大分の時間が続いた。
しかし、松本もシュートを身体で止めるような泥臭さで対抗し、PA内でも球際に強く、大分のアタッカー陣を自由にさせなかった。松本にとって今節は、昇格も降格も蚊帳の外の“消化試合”かも知れない。しかし負けていい試合など一つもない。今季最多には惜しくも届かなかったものの、震えるような寒さのなかで12,956人もの大観衆がアルウィンに詰め掛けたのだから、その前でみっともない戦いは出来ない。すると徐々に流れはホームに傾く。前半終了間際には、まず松本がPAの僅かに外でFKのチャンスを得るが結局ゴール前での混戦で押し込めずに、最後は大分GK丹野研太にキャッチされる。一方、大分もカウンターで対抗するなど、ボールの行方は目まぐるしく変わった。

後半も流れを離すことなく松本が猛攻を仕掛ける。特に船山貴之が存在感を発揮。裏に抜ける動きや、サイドに流れてボールを受けてのチャンスメイクなど神出鬼没の動きで大分守備陣を困惑させると、塩沢勝吾と楠瀬章仁の最終ラインの背後を狙う攻撃も形になりはじめスタンドが幾度も沸いたが、フィニッシュの精度が僅かに足らずにゴールは遠い。それは大分も同様で、最初の1点がこのゲームを大きく左右させると思わせる膠着状態へと陥る。状況打開のために動いた大分は、60分に木島悠に替えて高松大樹を、80分には永芳卓磨に替えて村井慎二をそれぞれ投入。一方の松本は「皆、足を止めずにやれていたし、途中から入って、このテンションについていけるか」（反町康治監督）とあえて交代を大橋正博1人にとどめ、戦況を見守る策を採った。しかし、最後まで両チームのゴールネットが揺れることはなかった。

この結果、大分は6位が確定。湘南が勝利したことでもとより自動昇格の2位はならなかったが、やはりドローという結果は痛恨だった。しかしこの試合で好セーブを連発し、存在感を見せ付けた丹野は今節の収穫と言えるだろう。昨季の出場はリーグ戦6試合。今季もここまでは清水圭介の控えとしてベンチで出番を待っていたが、前節・山形戦で得たチャンスを見事にものにして、この大事な一戦でも起用された。大胆な飛び出しとクロスへの対応なども破綻なく、ゴールにカギをかける活躍を見せた。これからJ1昇格プレーオフという“短期決戦”を迎えるにあたり、このような選手の存在はチームを盛り上げるのに必要不可欠。ここまでのチーム作りが間違っていなかったことを、ある意味示したのではないか。試合後に反町監督がデットマール・クラマーの「試合終了の笛は次の試合開始の笛」という言葉を引用したが、大分にとってはまさに次の試合へのスタートの笛だ。あと2試合、最高に痺れるサバイバルが待っている。

そしてホームチームにも触れたい。公式記録には7.3℃とあるが、日の指さない曇り空は試合途中に遂に雨模様となった。体感温度は氷点下に近いものがあったはずだ。しかし、ピッチ上では熱い戦いが繰り広げられ、大分からも約800人のサポーターが遥か遠い松本まで訪れていた。12番目の選手たちにとって、燃えないはずのないシチュエーション。今季最終戦を惜しむように大声援を送り続けた。第40節に栃木に敗れ、プレーオフ出場の可能性は消滅した。しかし、Jリーグ1年生のクラブは15勝14分13敗で12位という結果を出した。課題も多く見つかったが、チームが大きく成長。2012シーズンに確かな足跡を残した。

こうして来るべき2年目のシーズンに向け捲土重来を期して、しばしの間アルウィンのピッチから離れることとなった。

以上

2012.11.12 Reported by 多岐太宿