「FUJI XEROX SUPER CUP 2012」とリーグ戦を合わせると、今シーズン3度目の対戦となったこのカード。過去2度は流動的にボールを動かすF東京のポゼッションに対し、柏が強固な守備ブロックを敷いて、そこから鋭いカウンターを仕掛けるというコントラストがはっきりしており、今回もその流れを確かに踏襲していた。序盤からF東京は、最終ラインと両ボランチを経由した丁寧なビルドアップとパス回しを見せ、そこにトップ下に入る梶山陽平が彩りを加える。先制点となるPKも、森重真人がボールを持ち出し、エジミウソン、石川直宏、梶山とダイレクトパスをつないで中央を突破したところからファウルが生まれている。11分、このPKをルーカスが落ち着いて決め、F東京が先制した。
スピーディーな攻撃を仕掛けたい柏は、レアンドロ ドミンゲス、ジョルジ ワグネルにはボールが入り、F東京のミスも手伝ってショートカウンターの場面はあったのだが、前線の工藤壮人、澤昌克が森重真人と加賀健一のタイトなマーキングに苦しみ、高い位置で収められないことから、どうしても攻撃に厚みを欠いてしまう。しかも、今節は那須大亮、橋本和という両サイドバック不在も影響したのか、ビルドアップ時にサイドへ展開した際にも手詰まりになる傾向が強く、結局は長いボールに頼らざるを得ない。エジミウソン、ルーカスに入る縦パスは、近藤直也と増嶋竜也が弾き返し、柏の守備陣が崩されることはなかったが、スコアとシュート数が示す通り、F東京がペースを握った45分間だった。
ところが後半に入ると、この流れが一変する。その理由は、柏の新外国籍選手、ネット バイアーノの投入にあった。「ネットはルーズボールも頭や胸で処理して、五分五分のボールでもマイボールにして起点になってくれる」(工藤)。さらに「センターバックのチェイスも非常に効果的に、精力的にできていた」とネルシーニョ監督が振り返った通り、攻守において前半にはなかったアクセントを与えたのである。前半は工藤や澤に対してフィジカルの強さを見せていた加賀も、さすがにネットとのフィジカルコンタクトは圧倒され、柏の前線にどっしりとした軸が作られたことで、柏は全体のラインを押し上げ、ボランチの大谷秀和、茨田陽生も高い位置でルーズボールを拾えるようになり、セカンドボールを支配してペースを握った。
逆にF東京は、ランコ ポポヴィッチ監督が「入り方は良かったが、先制してから消極的」とハーフタイムに釘を刺したにもかかわらず、「後半は相手が前に出てきて、そこで少し受け身に回ってしまった。そこで相手にペースをつかまれてしまった」(椋原健太)というように、ボランチから後方が柏の圧力に後手を踏み、ショートパスをつなぐ生命線であるコンパクトな陣形が崩れると、素早くスペースを突く攻撃へシフトチェンジ。戦前の「柏のカウンター」と「F東京のポゼッション」という両者の立ち位置は、180度転換した。
柏の攻撃が実ったのは67分。近藤がゴール前に上げたロビングをネットが胸で落とし、ジョルジがシュートブロックに入るF東京の白い壁の隙間を射抜いてゴールへ突き刺した。そして72分に、加賀がこの日2枚目のイエローカードを受けて退場となると、柏の反撃ムードに拍車が掛かった。ただ、F東京も冷静に対処。ポポヴィッチ監督は丸山祐市を入れて即座に守備の穴を埋め、ピッチ上にいた選手たちも「最低でも勝点1は取って帰ろう」(米本拓司)と守備の意識を高め、割り切って試合を進めながらも、谷澤達也、渡邉千真ら交代で入ったフレッシュな選手たちがカウンターを狙う。柏は数的優位を生かして相手ゴールに襲いかかり、F東京もまた、終盤には狙い通りカウンターから谷澤、渡邉にチャンスが訪れた。だが壮絶な攻防もスコアは動かず、1−1の引き分けに終わった。
時にドローには「痛み分け」という表現が用いられるが、今回の一戦に必ずしもその言葉は当てはまらないだろう。鮮やかなフットボールを身上とするF東京は、その哲学ゆえにこれまではあっさりと星を落とすことも目に付いたが、この試合では数的不利を強いられても、最後は体を張って守り抜く“泥臭さ”があった。昨シーズンの柏、あるいはそれ以前の名古屋や鹿島を見ても、泥臭く守り抜ける、または泥臭く勝ち抜けるチームが最後に覇権を握る。そういう点では、F東京には新たな発見があったと言えるのかもしれない。
そして柏は新加入のネットに尽きる。現在リーグ43得点と、J1随一の破壊力を誇る攻撃陣に加わった新たなオプションは、これまでの柏の前線にはなかった高さや強さで勝負できる局面を可能とし、引き分けに終わったものの、今後に向けて大きな可能性を感じさせた。「今までの経験上、この勝点1がモノを言ってくるということは何度も経験している。今日の勝点1も大事に捉えたい」。指揮官・ネルシーニョ監督も、この勝点1を高く評価した。
以上
2012.08.12 Reported by 鈴木潤
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