前節の岐阜戦を勝利して連敗から抜け出した福岡。内容には課題も残ったが、それでも、勝点３だけが必要な試合で勝利を掴み、しかも、結果として３−０というスコアを記録したことは、今の福岡にとっては次につながる大きな勝利。そのせいか、雁の巣球技場の空気も明るく感じられる。しかし、誰１人として満足している者はいない。そんな選手たちの気持ちを代表して西田剛は話す。
「岐阜戦は、点を取れたタイミングも含めてパーフェクトな勝ち方だった。けれど、勝ち続けなければ本当の力はつかない。しかも、互いの順位を見れば、岐阜は勝たなければいけなかった相手。そういう意味では、まだ１勝。上位陣との差を縮めるためには順位が上のチームに勝たなければいけないし、それを続けることでチームに自信が生まれる。そういう意味では、今の自分たちにとって重要なのは次の湘南戦。湘南は、自分たちが勢いに乗るためには倒さないといけない相手。この試合で自分たちの本当の力が試される」
岐阜戦での勝利の本当の価値は湘南戦の結果で決まる。残り試合は15。福岡に残された可能性を現実のものにするためには、目の前の試合を勝ち続けるしかない。

福岡がやることは変わらない。ボールをしっかりとポゼッションし、攻守に渡って主導権を握ったサッカーを表現すること。決して攻め急がず、ボールを回しながら相手の隙を窺い、そして、チャンスと見るや、スイッチを入れ替えて素早く攻撃に転ずること。とりわけ、ボールを奪った後に、いかに素早く守から攻撃へ切り替えられるかがポイントになる。連敗中は、攻め急ぐばかりに自分たちでリズムを崩して、守備の隙を突かれてカウンターから失点するシーンが見られたが、岐阜戦では、前に急がずにボールを支配して勝利。上位相手にも、岐阜戦と同じ戦い方ができるかが最大のポイントになる。

だが、対戦相手の湘南は、今の福岡にとっては簡単な相手ではない。３−４−３の布陣で戦う湘南は、３トップが高い位置からプレッシャーをかけ、それに連動して全員がハードワークしてボールを奪い、強力３トップに加え、両ＳＨ、そしてボランチまでが高い位置から仕掛けてくる攻撃的なチーム。ここまでの43得点は、東京Ｖに次いでＪ２では２番目に当たる。また、攻から守への切り替えも速く、高い位置でボールが取れない時は、両ＳＨが素早く切り替えて５バック気味に構えてスペースを消す。前節の横浜FC戦に敗れたとはいえ、第26節までは９戦負けなし。敗れた横浜FC戦も主導権を握っていたのは湘南で、チームは好調を維持している。そして、首位から６位までが勝点４差の中にひしめくＪ１昇格争いの真っただ中で戦っていることもあり、連敗は許されない状況にある。アウェイとは言え、福岡から勝点３を奪うという気持ちは強い。現時点での力関係から見れば、押し込まれる時間帯が増えることは覚悟しなければならない。

そんな湘南戦を制するためのポイントを前田浩二監督は「判断のスピードを上げること」だと話す。「これまでは、引いてブロックを形成する相手を、どのように崩すかがポイントだったが、湘南は向こうからボールを奪いに来る。タイトでスペースがない中で、いかに判断を速くしてサイド攻撃を仕掛けられるかが鍵」
安易な判断でボールを保持しようとすれば、湘南の激しく、強い前からのプレッシャーの前に命取りになるのは間違いなく、いかに判断を速くしてボールを回せるかが勝利への最低条件。それができなければ、湘南のリズムを崩すことは難しい。「岐阜戦でチャレンジしたことを湘南でもチャレンジできるか。球際で負けないという基本的なところはもちろんだが、自分たちよりも順位が上のチームに対して向かっていく姿勢を表現することが大事」と前田監督は続ける。

そして、選手たちも上位陣との対戦をポジティブに考えている。
「いまのモチベーションは上のチームとやって勝点３を取ること。上位チームと戦いたいという気持ちが強い。そこでの勝利は実質的に勝点６の価値がある。チームとしてやるサッカーは変わらないので、それを当たり前に実行して、ホームで勝利を得たい」（坂田大輔）
その想いは、スタジアムに足を運ぶファン、サポーターも同じ。残る15試合は総力戦。スタジアムをひとつにして、あらゆる力を結集させて勝利を得たい。まだ誰も諦めていない。福岡の反撃はここからだ。

以上

2012.08.11 Reported by 中倉一志