キックオフのボールを自陣深く戻すことなく、横浜FCが意表を突いて中央から左サイドをドリブルで持ち上がる。三浦知良から内田智也、クロスに大久保哲哉がヘディング、バーの跳ね返りを最後は武岡優斗が仕留めた。わずか16秒、電光石火の先制劇はその後、山形の秋葉勝と宮阪政樹がゴールを挙げた山形が逆転。第7節、山口素弘監督就任3試合目での初勝利はならなかったが、当時21位の横浜FCが今節は9位、いよいよプレーオフ圏内に手を伸ばそうかという位置で迎えることだけを見ても、着実にチーム力を上げてきたことがわかる。

前々節、高温多湿の下で行われた富山戦はスコアレスドローに終わり、アウェイ連勝は8でストップしたが、ホームに湘南を迎えた前節は1-0で勝利。「前半0で抑えられたのが大きかった」(山口監督)と監督、選手が口を揃えるほど押し込まれたが、56分に投入されたのは、2度目の横浜FCデビューとなった寺田紳一。4-3-2-1へのシステム変更と寺田のキープ力などでシュートチャンスを増やすと、71分、コーナーキックから田原豊の決勝ゴールにつなげた。今週は福岡、柏でプレーした中島崇典が復帰し、チームのさらなるレベルアップを図りながら、このあとに続く山形、京都、水戸、甲府と昇格レースに絡むクラブと対戦する8月を勝負どころととらえている。

前回対戦の逆転劇を契機として5連勝した山形は、その後3度首位に立ち、昇格レースを牽引した。しかし、第22節で栃木に敗れ4位に後退して以降は、自動昇格圏内に潜り込むことなく、順位をジリジリと下げて前節、ついに7位まで後退した。最近5試合は負け知らずだが、この間、わずか1勝。現在も3試合引き分け中と勝ちきれていないのが現状だが、引かれた相手にもボールを動かしながらシュートシーンまで持ち込むなど、攻撃では手ごたえをつかんでいる。「サイドのスペースをうまく使って、サイドからの攻撃というのはできている。サイドがうまく効いてくれば中からも攻撃ができると思うので、いろいろなバリエーションで攻撃していきたい」と話すのは、チーム最多の7得点を挙げている中島裕希。

前節・水戸戦でも永田亮太が移籍後初を含む2得点を挙げたが、攻撃の駒はさらに充実している。柏から新加入の林陵平もすでに途中出場で2試合を経験。そして今週新たに加わったのが、C大阪から期限付き移籍のブランキーニョだ。大きな狙いは、ラストパスの精度を上げることによる得点力アップ。奥野僚右監督は「チームを知る作業と知ってもらう作業を限られた時間のなかでするには、そういう判断をしました。それがすべてです」と今月9日の合流初日から主力組と組ませている。先発か、途中からになるかの明言こそないが、フィッティングを急ピッチで進めつつ今節に臨む。

サイドバックの裏が空いてもボランチかサイドハーフが確実に埋めるなど、横浜FCは前線からのプレッシングよりも自陣でブロックを構築しての守備を得意としている。ゲームプランとして前半を無失点で乗り越えられれば、勝点にたどり着く可能性がきわめて高い。攻撃では前線の大久保や田原でタメができるが、ロングボール一辺倒ではなく、丁寧につないで攻めるスタイル。前節のようにプレッシャーをかけられると、ミドルサードから先の縦へのパスでミスが出るが、守備で我慢できている分、攻守の切り換えを何度でも粘り強く繰り返せるのも強みだ。

攻撃での崩しという部分では、山形が優位に立っている。相手をサイドへ寄せてからのサイドチェンジで右・小林亮、左・石川竜也がクロスを上げる態勢を整え、ゴール前と合わない場合でもそこからつくり直して波状的な攻撃が可能。相手に多くのシュートを打たせない横浜FCとの対戦では、フィニッシュの精度が大きなカギとなる。また、守備では相手のつなぎに対する守備に大きな問題はなさそうだが、相手がターゲットに当ててからのセカンドボールでどれだけ競り勝てるか。さらに、選手交代やシステム変更でも適切な対応が求められる。

ここまでホームでは9勝3分け1敗と強さを誇る山形と、アウェイで8連勝を含む8勝2分け3敗の横浜FC。高温多湿のなかで導かれる結果が、互いの今後に大きく影響することは間違いない。

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2012.08.11 Reported by 佐藤円