横浜FCにとって「勝負の8月」がスタートする。現在横浜FCより上の順位のチームは8チームあるが、そのうち1チーム（千葉）とは対戦を終了しており、残りの7試合のうち4試合（湘南、山形、京都、甲府）が、この8月に集中している。つまり、昇格争いにおける直接対決が暑い夏に続くことになる。1位からプレーオフ圏内の6位までが勝点3差にひしめく大混戦の今年のJ2では、この8月が非常に重要になることは間違いない。そして、その皮切りの試合となるのが、今節の湘南戦、神奈川ダービーだ。この試合、間違いなく昇格争いにふさわしい、そしてダービーらしい接戦となるだろう。

接戦を予想する最大の要因は、26試合でわずか3敗しかしていない湘南の試合巧者ぶりだ。前節の対戦相手・北九州の三浦泰年監督が「彼らに自信は感じました。湘南さんにプレッシャーをかけるわけではないが、今年昇格しなければ、こういう勢いが来年続くとは限らない」と述べたように、シーズンを通して安定した成績を残していることによる自信と勢いがあるのは確か。しかし、それを単に勢いとして片付けることはできない。前からプレッシャーに行くとき、引いて守るときの使い分けと意思統一は見事で、相手が隙を見せた時に縦に勢いを持ってゴールを陥れる戦い方は完成度が高い。北九州に予想以上にパスを回され、曹貴裁監督は「内容的には今季でいちばん悪かった」と振り返ったが、それでも要所を締めて勝点3に結びつける力を見せつけた。今節は、GK阿部伸行、攻撃の核となる高山薫が出場停止となるが、チームとしての一体感が湘南の長所だけに、この逆境を乗り越えることは十分可能。この試合でも、その堅さを見せて、混戦を抜け出すスパートを掛けたい。

そして、湘南を迎える横浜FCは、8月1日にG大阪から寺田紳一を期限付き移籍で獲得した。2010年、2011年と横浜FCの心臓であった寺田が加わったことは、「前進する保持」を昇格争いでも威力を発揮できるレベルに引き上げることは間違いない。ここ数試合、対戦相手からの研究が進んでいることもあり、ほど良い距離感を保ちながらボールを運ぶ場面が減ってきている。その研究された状況に対応するために、ボールを保持する方法を増やすとともに、暑いコンディションでもボール保持に必要なパスの強さやボールを受ける体の角度など、基本的だが重要なプレーの精度を再び上げる必要がある。今週の練習でも、そのような基本的な練習が繰り返された。チームとして方針をぶれさせることなく、地道にレベルアップを図ることがこの8月を乗り切るベースとなる。今年の横浜FCはチーム内競争が激しく、特に中盤でレギュラー確保という選手はいない。寺田もまずはチーム内の競争に勝たないと出場できないが、少なくとも寺田の加入で選手の目の色はさらに変わっている。9位まで順位を上げたが、昇格争いの直接対決ではほとんど勝てていない状況であるだけに、この湘南戦の直接対決は中盤のレベルアップを試す大事な試合となる。

Shonan BMWスタジアム平塚で行われた前回の対戦（第8節・4月15日）は、湘南は首位、横浜FCは21位という対照的な位置でのゲームだった。試合はダービーマッチらしいシーソーゲームとなったが、湘南が3-2で逃げ切った。湘南のほうが1枚上手であることを示したゲームだったが、一方で山口監督就任後4試合目で横浜FCの狙いとするサッカーがピッチに現れ始めたゲームでもあった。その後、横浜FCは連勝街道を突き進み、第9節からの18試合で、12勝2分4敗（勝点38）を果たしている。同じ18試合で湘南が積み重ねた勝点は27であることからも、横浜FCの復活ぶりがわかる。勝点差8で迎えるこの試合は、その意味でも両チームの真価を問う場となる。

試合は前述したとおり、意思統一された守備からの一撃を狙う湘南に対して、横浜FCは湘南の守備の隙をチームで感じながら、ボール保持でその穴を突いていく構図になる。前節の北九州はポゼッションにこだわり、湘南3バックの間、バイタルエリアをうまく使い続けた。その戦いが参考になるだろう。曹監督は間違いなく修正を施すだろうが、個人戦術、グループ戦術、チーム戦術、そして采配の全ての面での駆け引きが勝敗につながる。

神奈川ダービーは、両チームとそのサポーターにとっては、印象的な試合しかないし、全てが記憶に残る試合だ。この試合も歴史に残る一戦。フリ丸とキングベルI世も早くもヒートアップし、様々なイベントも開催される。そして、昇格に向けた熱戦。燃え上がるニッパツ三ツ沢球技場に足を運んでもらいたい。

以上


2012.08.04 Reported by 松尾真一郎