「4点目まではパーフェクトな展開だった」と梅崎司が振り返ったように、途中までは一方的な試合展開だった。浦和は立ち上がりからボールを支配し、一方的に攻め続けると、開始7分には先制点を奪取。柏木陽介がタメを作って平川忠亮に展開、平川が中に折り返すと、ダイレクトで放った原口元気のシュートはポストに嫌われたが、こぼれ球を梅崎司が押し込んだ。
浦和は全てがうまく噛み合っていた。槙野智章が鳥栖戦に向けて「前からプレスをかけて、DFラインも上げて、前で潰せる形が取れれば」と話していたが、まさにイメージ通りのプレーができた。この日の浦和は最終ラインがいつもより高い位置を取り、前線も積極的にボールを追ったことで、普段の試合よりも高い場所でボールを奪うシーンが目立った。
「前からプレスをかけて、いつもならセカンドボールを拾われていたところで逆に拾って2次、3次攻撃ができた。今日は守備がすごくよかったと思う」と柏木も振り返る。布陣をコンパクトに保てたことで鳥栖攻撃時のセカンドボール争いでも優位に当てた。豊田陽平にロングボールを当ててこぼれ球を狙うという流れは鳥栖の得意とする形だが、前半はそのパターンでチャンスを一切作らせなかった。
ただ、一方的な試合展開になったのは鳥栖にも原因があった。試合前に尹晶煥監督が懸念していたことが現実になってしまっていた。「こういう雰囲気でやったことのある選手が多くないので、怖じ気づいたような部分はあったと思う」。
鳥栖の選手たちは埼玉スタジアムの浦和サポーターからの強烈な圧力に飲み込まれていた。体を張った泥臭いプレー、球際での激しさ、労を惜しまぬ運動量。そういった鳥栖の特徴が全く出せていなかった。いつもの貪欲な姿勢が陰を潜めて受け身になることが多く、セカンドボールに対するガツガツとした気持ちもあまり見られなかった。「やっぱり初めて経験する人が多かったので、雰囲気に飲まれるだろうなと正直思っていたけど、前半は確かに何もできなかった」。ベンチで戦況を見守っていた水沼宏太は、普段の戦いができていないと感じていた。
そんななかでも前半を1失点で乗り切った鳥栖だったが、いつまでも持ちこたえることはできなかった。50分、カウンターから柏木が右サイドに展開すると、平川がスピードを生かしてゴール前まで持ち運んで浦和が追加点。さらに52分にはセカンドボールを拾った柏木からカウンターが発動し、「入れてくださいという」絶妙のパスから原口が3点目を決め、その2分後にも原口がゴールネットを揺らした。
これでスコアは4−0。試合の趨勢は決した、と誰もが思ったはずだった。しかし、ここから鳥栖が猛反撃を見せる。大量失点で吹っ切れたのか、鳥栖は自分たちの持ち味を取り戻す。ボールに対して前からアタックに行くようになり、セカンドボールに対しても泥臭く反応。最初の一歩がそれまでとは見違えるように速くなり、運動量も出てきた。
そして67分、CKのこぼれ球から藤田直之がクロスを入れると、途中出場のトジンがヘッド。これで1点を返すと、直後のキックオフから金民友がスルスルと持ち運んで、藤田が2点目。さらに71分にはスローインの流れから藤田がゴールネットを揺らし、浦和と同じく4分間で3点を取るゴールラッシュで1点差にまで詰め寄った。
「緊張の糸が切れてほわっとなっていた」と柏木が指摘したように、浦和の選手が4点リードという状況で気を抜いていたのは間違いない。特にキックオフからそのまま運ばれて喫した2失点目の場面では、明らかに緊張感を欠いていた。ただ、鳥栖が自分たちのスタイルを思い出して流れを引き戻していたからこそ、相手の隙を突いてチャンスを作ることができたのも間違いない。敗れはしたが、鳥栖にとっては貴重な経験となったはずだ。
浦和にとっても収穫のある試合になった。先制しても追加点が取れずに苦しむというケースがずっと目立っていたが、この日はリードを奪ったあとも攻めの姿勢を失わず、得点を重ねることができた。「これまでは2点目を取りにいく勇気が足りなかったが、今日は乗り越えることができた」と指揮官も手応えを口にする。
また守備面でも、これまでは受け身になりすぎて相手に勢いを与えがちという課題があったが、この日はDFラインを高くして前からプレスをかける「攻撃的な守備」もできるというところを示せた。「3失点したことは反省しないといけないけど、それ以上の収穫はあったと思う」と槙野が話したように、今後に向けて明るい材料を手にできた一戦だった。
以上
2012.07.08 Reported by 神谷正明
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