タイプは違う。だが、広島にも磐田にも、近未来のＪリーグを代表する資格を持つニュー・スターが生まれつつある。

紫のスターは、25歳の高萩洋次郎だ。もっとも彼の場合、2003年に16歳でＪ２デビューを果たして以降、長く期待され続けてきた逸材。2008年にはＪ２で14得点７アシストを記録し、2010年のヤマサキナビスコカップではニューヒーロー賞を獲得している彼を指して、「新しい」という表現は、ちょっと違和感があるかもしれない。
ただ、これまでの高萩には「確かに巧いけれど、得点を演出する決定的な仕事にはつながらない」というイメージがつきまとっていた。独創的なアイディアは相手も仲間も驚かせる。糸を引くようなサイドチェンジやスルーパスで見せる「スペースを使う感覚」は天下一品。しかしその能力が、得点やアシストにはつながっていなかった。
だが、今季は違う。ここまでの16試合で２得点９アシスト。アシストが公式記録ではない以上断定はできないが、Ｊ１で彼ほどのアシストを記録している選手は他にいないはずだ。特に前節、ユアテックスタジアムを熱狂の渦に叩き込んだ首位攻防戦で見せたダイレクト・ループパスは、テレビ解説者が思わず「うわっ」と叫び声をあげたほどの創造性に満ちていた。青山敏弘の速いクロスをフェザータッチの右足で優しく浮かし、森崎浩司が走り込む時間を稼ぐと同時に、シュートを撃ちやすくする心憎いばかりの配慮を見せる。ボールが頭上を超えて放物線を描いたその瞬間、仙台のＤＦが絶望感に凍り付いたかのように見えた。

一方の磐田には、大卒２年目の10番＝山田大記がいる。彼はもちろんパスも出せるのだが、最大の魅力は左サイドを主戦場としてＤＦを手玉にとるドリブル突破。さらにヤマザキナビスコカップの対広島戦で見せたような鋭く正確なシュートも持ち味で、今季はすでに６得点３アシスト。11節から13節まで3試合連続得点をマークし、チームの上位進出への原動力となっている。

この二人、その経歴やスタイルに共通点はほとんどない。ユース出身で10代の頃からＪリーグが主戦場だった高萩に対し、山田は磐田のアカデミー出身ではあるが、藤枝東から明治大へと進学。年代別代表の経験はあるものの、U-19以降は代表という声がかからなくなった高萩と、ユニバーシアード代表に招集され、日本代表候補にもなった山田。パスの芸術家である紫の15番に対して、鋭さとスピードで勝負するサックスブルーの10番。育った環境もプレースタイルも全く違う両者だからこそ、二人の競い合いは興味をそそる。

問題は、山田が果たして出場を果たせるのかどうか。６月27日の対仙台戦で左足甲を負傷し、30日の対Ｆ東京戦は欠場。ただ検査の結果は打撲だったようで、骨には特段の異常はなかった模様。その彼のコンディションを森下仁志監督がどう判断するか。2位広島との直接対決、勝利すれば勝点で並べるという状況もあり、少々の無理を押してでも10番を出場させたい。だが一方で、Ｆ東京戦で３点を奪って勝利した流れを重視し、磐田の背骨を支える山田の存在を大切にしたいという考え方もある。先発ではなく途中出場の可能性も否定できない。ただ、ナビスコカップ・広島戦で途中投入され、試合の流れを一気に変えた山田の実績を考えれば、先発でも途中からでも青い10番が広島にとっての「脅威」であることは、間違いない。

公式戦３連敗と一時は調子を落としていた磐田だが、Ｆ東京戦の快勝によって再浮上の体勢を整えた。一方のホーム・広島はリーグ戦５試合負けなしとはいえ、ここ３戦の公式戦では２分１敗。勝ちきれない試合が続いている。ただ、仙台戦での胸を熱くさせる闘いで生じた勢いを持ち越し、眼下の敵である磐田を叩いて仙台への挑戦権を確保し続けたい思惑でチームはまとまっている。

２位と３位、共に組織で闘うチーム同士の激突は、互いの求めるサッカーが正面からぶつかり、火花がピッチの至るところで飛び散る激闘となるだろう。その鍵を握るのは、紫のアーティストが見せる創造性と、サックスブルーのドリブラーがまき散らす鮮烈さ。

柔か、鋭か。

雌雄は明日、ビッグアーチで決する。　

以上

2012.07.06 Reported by 中野和也