先にビッグチャンスを迎えたのは松本だった。15分過ぎ、重心を前に傾けた相手の攻撃を塞ぎ、すかさずカウンターに転じる。ゴール前の局面は3対2、しかしチェ スビンのシュートは枠を捉えきれない。立ち上がりは、怪我からおよそ3カ月ぶりに復帰した岩上祐三のシュートを皮切りに湘南が積極的にフィニッシュを狙ったが、松本も個人の仕掛けや1タッチで繋ぐなど次第にリズムをつくり始めていた。

ピンチを凌いだ湘南は、菊池大介がセカンドボールを拾いサイドの攻略を図ったあたりから再び流れを引き戻す。それからスコアを動かすまでにさほど時間は要さなかった。36分、コーナーキックの先で島村毅がこぼれ球を鮮やかに仕留めた。「狙っていた。気持ちで撃ったら入りました」と、らしく振り返る。

後半に入り、互いに攻撃的なカードを切るなか、湘南はさらに攻勢を強め、前半以上に多くの決定的なチャンスをつくりだした。パスを繋ぎ、あるいはセットプレーからフィニッシュを目指す。かたや松本もゴール前に白い壁を築き、GK野澤洋輔を中心に粘り強く守る。島村のヘッドを防ぎ、カウンターから狙った菊池のミドルも野澤が阻む。

松本の反町康治監督は振り返っている。
「ほとんど決定機がないまま終わるな、という試合に限って決定機が生まれる。サッカーはほんとうに不思議だなと思う。逆に相手は、決定機は多いが決められない。野澤が止めた時点ですこし風向きが変わったのは間違いない」

決定機に耐えた松本は終盤、DF飯田真輝を前線に上げて圧力をかける。船山貴之が裏に抜け出し決定機を迎え、さらに押し込んでいく。湘南もまたGK阿部伸行を砦に、DF陣の踏ん張りもあり、跳ね返す。しかし、ほぼラストチャンスにちかいコーナーキックにドラマは待っていた。90＋3分、塩沢勝吾がニアで競ると、最後は船山が体ごと泥臭く押し込み、土壇場で松本が追いつく。

湘南の曹貴裁監督は語る。
「僕も反さんからいろいろなことを学んだし、アウェイの時はなにか物足りない試合内容だったので、今日はホームで成長した姿を見せたかった。それは選手も同じだったと思う。アディショナルタイムにやられはしたが、それ以外の時間帯は我々のよさ、攻撃のよさや守備のコンパクトネス、ラインコントロールを含めて、選手たちはよくやったと思います。強いて言えば、あれだけ決定機をつくりながら取れなかった。もう1点取らないと上には行けない、そんなに甘くないと、神様に教えてもらったのかなという気持ちでいます」

湘南がリードを守り切れず、逆に松本は追いついた。アディショナルタイムのゴールが勝敗に響いただけに、松本が勝点1をもぎ取り、湘南が勝点2を失った印象はどうしても強くなる。ただ、結果が90分を通したプレーの集積であることは言うまでもない。

「追いつけたのは、開幕当初よりも成長しているから。内容は良くなかったが、勝点1をとれたことはプラスに考えていいと思う」同点ゴールの船山は語る。口にした一定の手応えを携え、松本は次節、首位に立った東京Vに挑む。

一方、湘南のアディショナルタイムの失点は第4節岐阜戦と第6節鳥取戦以来今季3度目となるが、過去はいずれも2点リードの状況だった。岐阜戦では2−0の状態から失点し、その後は危険な流れを察知した選手たちが自己判断で時計の針を進めゲームを終わらせた。鳥取戦では89分に追加点を奪い、1点を返されたのは岐阜戦同様2−0とした後のことだった。今回は結果として引き分けたが、賽は振らねばわからぬし、振った采が湘南のそれだったことは紛れもない。

言うまでもなく、活かすべきは選手たち自身がわかっている。
「アディショナルタイムに失点して勝ちを落としたのは初めて。リーグ戦も一巡して、放りこんでくるチームは今後も多いと思うし、僕自身を含めてもっとアイデアを出して対処することはできたはず。守備で隙を見せないことも大事だし、2点目を取っていればというゲームでもあった。でもこれは経験しなければならないところだと思う。後半戦の１つ目で学べたこの経験を今後に活かし、失った勝点2を取り返す気持ちでやっていきたい」

キャプテンの坂本紘司は語った。この日の悔しさはきっと、明日の糧になる。

以上

2012.07.02 Reported by 隈元大吾