面白いゲームだった。もちろんこれは、勝利した東京V担当としての視点だが、それでも特に前半は、川勝良一監督が今季キャンプ時から掲げてきた『観る側からすれば「たまたま、偶然」に見えても、やっている方は意図してやっている、“意外性の共有”』が、実に見事に具現化されていたのではないだろうか。試合開始から、全員の高い技術と運動量、多彩なアイデアを駆使し、観客を魅了した。

降雨が、より集中力を高めてくれたのかもしれない。というのは、前節のアウェイ愛媛戦でも視界不良となるほどの豪雨の中の試合となり、黒星を喫してしまっていたからである。稀に見るピッチコンディションの悪さだったとはいえ、「それでも勝たなければいけなかった。厳しいことも言われて、みんな燃えていた」（梶川諒太）。自分たちのサッカーができずに敗れた前節の悔しさを、同じ雨が思い出させてくれたようだ。「みんなの強い気持ちがゲームに表れていたと思います」と、梶川が語れば、敵将・柱谷哲二監督も「この試合に懸けるヴェルディの気持ちの強さっていうのはすごく感じられました。今日のヴェルディはとてもよかった。完敗です」と、素直に白旗を挙げたほどであった。

中でも特筆すべきは、西紀寛の攻守にわたる献身ぶりだろう。ここまでも、常にチーム屈指の高パフォーマンスを見せ続けているが、この試合では、ボランチの位置はもちろん、さらにDFラインの中に背番号11を見つけることも何度かあったほどだ。これによって、水戸がストロングポイント・FW鈴木隆行を封じられ、さらに中盤でほとんどボールが触れないため攻撃の機能不全が起こったことは確かだろう。「なんとか中盤でボールを奪わないと」と、鈴木隆も早い時間帯からボランチまで落ち、自らボールを受けに行ったが、東京Vの素早いプレッシャーを振りきることはできなかった。「いつだって、攻守にわたって本当に気の利いたところに入ってくれて、危ないところをカバーしてくれている。負担ばかりかけてしまって申し訳ないです」と、梶川も感謝しきりだった。

また、前半11分、同31分に挙げた阿部拓馬の2ゴールは、「西君が良いボールを出してくれたおかげです」と、どちらも西から生まれたものだった。開幕当初からチームメイトたちが口にし続けているが、東京V加入後約半年近く経ってなお、周囲からの信頼は厚くなる一方である。今後も、西のパフォーマンスから目を離せそうもない。

さらに、エース阿部拓馬の充実ぶりには圧巻としか言いようがない。西のシュートがポストに弾かれた返り球を押し込んだ先制点、同じく西からのクロスにファーから詰めた2点目も見事の一言だが、最も会場がどよめいたのは前半39分だった。森からのパスを受けると、足を滑らせながらも左足を一閃。GKの伸ばした手の先を避けるようにカーブしゴール左隅に吸い込まれていった。残念ながら味方のファウルによってこのゴールは認められることはなかったが、目の前で見た“幻のスーパーゴール”に、スタジアム全体が魅了されたことは間違いないだろう。「アベちゃんのおかげで勝てている。謙虚だし、周りに合わせようともしてくれるし、自分でも積極的に行こうともする。去年よりも貪欲さを感じるし、良い意味で遠慮がなくなっていると思う。ヴェルディのエースとして、得点王を狙って欲しい。その力に僕たちもなれればいい」飯尾一慶は、チームからの得点王誕生へ全面バックアップを誓っている。その言葉が象徴するように、この試合のゴールで、阿部は5試合連続ゴールを達成。ゴール数も14と伸ばし、首位・ダヴィとの差を2点に縮めた。今後、タイトル争いにも注目したい。

この試合、ポイントの１つとされていたのが、土屋征夫、深津康太の抜けたセンターバックだった。高橋祥平、吉弘充志のコンビが担ったが、「チームにとって不安になっていたと思います。でも、逆にここで結果を残せたらアピールにもなる。しっかり集中して０に抑えようとミツ君（吉弘）と話していました。みんなもカバーに入ってくれて助けてもらい感謝しています」高橋は、完封で終え、責任を果たせた喜びに胸をなでおろしていた。だが、一方で、「後半の途中から疲れが出て、運動量が落ちて相手に押し込まれてしまった」と、反省も口にしている。
また、この試合が復帰戦となった中後雅喜も、ベンチから見ていた前半残り5分、そして自分が加わってからも含めた後半20分すぎ以降の戦い方について「自分たちから相手に渡してしまった主導権をなかなか握り返すことができなかった」ことが、今後の大きな課題だと語った。

実際、水戸は後半になって東京Vが疲れから明らかに運動量が落ちると、少しずつ中盤でボールが回るようになり、仕掛けてファウルを奪い、得意のセットプレーに持ち込む場面も増えていった。それでも、鈴木隆は「今日は1点目が全て」だと一言。「ヴェルディだから、ボールを回されることは分かっていた。でも、そこで何とか耐えて、ボールを保持しながらも点が奪えない状況に相手を追い込んで、焦れたところで点を奪うというのが狙いだった」そうだが、「そこで点を取られ、2点目を奪われたら、決定力がないウチとしては正直キツかったです」と、唇を噛みしめた。

敗因を、闘将は「判断のミス、技術のミス、本当にミスの多いゲームだった」とする一方で、「それを誘ったのはヴェルディのプレッシャーだったと思う」とも語っている。本来であれば、“素早く激しいプレス”は、水戸のセールスポイントとも言える部分のはず。そのストロングポイントで相手に上を行かれてしまったということは、大いに課題が残ったということだろう。後半戦、これから上位へ食い込むためにも早急な対策が必要とされそうだ。

東京Vは、2試合ぶりに首位に返り咲いた。「僕、まだ優勝とかを1回も経験したことがないので、1回ぐらいは経験したいなと思うんですよね」苦労人のエース阿部が最も欲しいタイトルは『優勝』である。どうやら、今季の東京Vには「追われるプレッシャー」を感じるよりも、「一刻も早く突き放して、余裕を持ちたい」タイプの選手が多いようである。プレッシャーを楽しめることほど幸せなことはない。当然、目指すサッカー、チームの完成にはまだまだ先が遠いと全員が思っているだろうが、首位からの後半戦スタート。悪くはない。

以上

2012.07.02 Reported by 上岡真里江