決勝ゴールが生まれたのは26分。それは福岡の狙い通りの形だった。攻撃の始まりは岡田隆がセカンドボールを拾ったところから。その岡田からボールを預けられた鈴木惇が左サイドの高い位置に出てきたキム ミンジェへ展開。そして、キム ミンジェが高橋泰とのワンツーから左サイドを抜け出してファーサイドへ向けてクロスを送り込む。最後を締めくくったのは福岡の「雨男」城後寿。競り合う前野貴徳よりも頭ふたつ高く跳び上がってヘディングシュートを叩きつけた。「自分が点を取ることでチームが勝てたので、すごく嬉しい。後半戦は自分にとっても、チームにとっても結果が求められているので、そのスタートで点が取れたというのは、前向きに捉えていいのかなと思う」とは城後。前半戦は思うような戦いができなかった福岡だが、後半戦での巻き返しに向けて幸先のいいスタートを切った。

コンパクトなゾーンを形成して、ボールをポゼッションしながらゴールを目指す。福岡も、愛媛も、表現したいサッカーに大きな違いはなく、立ち上がりは、互いに相手のコンパクトなゾーンを抜け出せない時間帯が続く。そんな展開の中、時間の経過とともに違いが現れる。それは前への推進力の違いだった。その要因を愛媛の金森智哉コーチは話す。
「全体的にパワー不足。ブロックを作るまではよかったが、そこから誰がファーストディフェンダーとしてプレスをかけるのかが明確ではなく、相手にとって怖い守備が出来ずにズルズル下がってしまった」
前半、シュート数だけなら福岡の４本に対して、愛媛の６本。だが、怖さという点では明らかに福岡が上回った。鈴木と岡田が中盤を制圧してゲームをコントロール。前線ではキレが戻ってきた坂田大輔が裏のスペースを狙い、高橋が相手の間でボールを受けて愛媛の守備を中央に引き付け、そしてサイドへ展開してチャンスを作った。それは、福岡が目指すサッカーの形だった。

愛媛も、後半に入ると意地を見せる。神山竜一のファインセーブの前にゴールはならなかったが、後半開始直後の47分には、有田光希がペナルティエリア内でＧＫとの１対１のシーンを作り出し、それをきっかけに前から攻撃を仕掛けた。中盤で存在感を見せるトミッチがセカンドボールを支配。右サイドでは、アライールが高い位置を取って福岡にプレッシャーをかける。そして、前への意識が高まったことで、２列目に並ぶ赤井秀一、大山俊輔、東浩史の動きが活性化する。
しかし、この時間帯を福岡は粘り強く守り抜く。「相手の攻撃を受ける時間が長くなってしまったが、しっかりと耐えて、自分たちの前でシュートを打たせるという形を作り、決定的に崩されるシーンを作らなかった」と振り返るのは高橋。リーグ前半戦では、同じような展開からズルズルとリズムを失っていった福岡だったが、この時間帯を落ち着いて、そして粘り強く守れたことも、勝因のひとつだった。やがて65分が過ぎたあたりから愛媛の運動量が落ちると、ここからは福岡のリズム。時間の大半を愛媛陣内で過ごし、最後はしっかりとフィニィッシュして愛媛にリズムを渡さない。４分間のアディショナルタイムも、コーナーフラッグ付近でボールをキープして時間を使い、危なげなく１点のリードを守り切った。

これで福岡は４試合ぶりの勝利。勝点３はもちろんだが、前節の横浜FC戦に続き、自分たちの目指すサッカーを表現して勝利を得たことは、後半戦の巻き返しに向けて大きな収穫。「精神的にも、チームが一つの方向に向かうという観点からも、非常に重要な１勝だったと思う」と前田浩二監督は試合を振り返る。だが、置かれた立場を考えれば、Ｊ１昇格を果たすためには、この日の試合を続けることが条件。そういう意味では、次節の徳島戦で、どのような試合を見せるかが大きな鍵になる。「喜ぶのは今日だけ。明日から、次の試合に向けての準備をしっかりとやりたい」。高橋はそう話してスタジアムを後にした。

そして愛媛。決して内容が悪かったわけではないが、勝利のためには「何か」が足りなかった。前節まで、ホームゲームでは６勝３分１敗という成績を残しながら、アウェイでは２勝４分５敗。その流れを断ち切るべく臨んだ福岡との戦いだったが、この日もアウェイの壁を破ることができなかった。「勝つためには死ぬ気で走ったり、球際で厳しくプレーすることなどが必要。自分たちの上位チームとやるときにはそうした面が出るが、下位チームとの試合ではそれが出せず、勝てないことが多い」とは浦田延尚の弁。次節もアウェイ（北九州）での戦いが続くが、そこでどのような試合を見せるかに注目が集まる。

以上

2012.07.02 Reported by 中倉一志